【コラム】遊技機メーカーにおける新機種開発一連の流れについて 後編

ぱちんこ開発者の独り言80
今回のコラムでは後編のため、前回(中編)、前々回(前編)のコラムを読んでから、今回のコラムを読んでいただければと思う。

5.本格開発スタート
前回のコラムで説明した通り、各開発部署に担当が明確にわかれており、ゲーム企画が制作した企画書、仕様書を元に、各開発部門が同時進行にて遊技機開発を行うことになる。

イメージとしては、企画書・仕様書という設計図を元に、各部署が別々でパーツを作成し、あるタイミングでそれを一つにまとめる。といった具合で開発が進むこととなる。遊技機の開発としては専門的な各部署が行うが、大きなブロックに分けると、以下の2種類に分けられる。

①液晶(映像)制作部隊
⇒ゲーム企画、映像開発、ソフト開発、サウンド
ゲーム企画が作った仕様に基づき、映像開発は映像制作を行い、ソフト開発はプログラムを組む。

ゲーム企画が予め仕様をしっかりと確定させていないと映像開発は仕様に沿った映像制作ができず、後に素材不足を起こす可能性もある。ソフトは言わずもがなであり、仕様が変わる度にツギハギなプログラムになるため不自然な流れになることも多く、当初の企画固めは非常に重要である。

②機構制作部隊
⇒電子回路設計、機構設計、機構デザイン、ゲージ
ゲーム企画が作った仕様を参考にするものの機構制作部隊はまた別視点での開発を求められる。なぜなら、遊技機における第一印象の「見た目」の部分は盤面や筐体に集約されており、営業部が販売時におけるインパクトを見た目に求められるからである。

また、1台あたりの製品原価は全てどのような機構制作をするか。によって原価に違いが発生するため、機構制作部隊は量産品の金型を作成するために、試作品にて役員プレゼンを行う必要がある。

6.試作における役員プレゼン
新規プロジェクト発足における役員プレゼンから約1年弱、このタイミングでようやく遊技機として初めて形になる「試作品」が完成するわけである。

この試作品の役員プレゼンに合わせて、液晶制作部隊はツギハギで役員プレゼン用の動画を制作する。

一方、機構制作部隊は、遊技機の試作品を完成させるだけではなく、コスト表を持参の上、役員プレゼンに臨む。

開発に詳しくない役員や営業部からすると、既に試作品とはいえ遊技機として(見た目は)完成形として確認することができるため、ここでのプレゼン如何によって、今後のプロジェクトの運命を大きく左右することとなる。

あくまでも試作品(役物)の評価会なのであるが、役員はここで初めてぱちんこになった映像を確認することになるので、液晶の評価会になることも少なく無い。

また、ここで営業部の方から「今の流行りのスペックは〇〇だから、▲▲のスペックは売れない」という、もはや何の確認会かわからない意見が出て、プロジェクトが大幅にやり直しになることも間々ある。

試作品でのプレゼンを無事通過すると、完成まで7分目を通過したというところであろうか。

7.試打会
試作品での役員プレゼンを無事通過すると、機構制作チームは金型を発注し量産品が仕上がってくる。T0品(金型完成直後の試打ち)と呼ばれ、検証を行いながら金型を修正し、トラブルが発生しないように完成品へと近づけていく。

一方、液晶制作部隊は映像制作が一通りの映像が完成するタイミングに合わせて、プログラムやサウンドも全てが完成するように調整し、進行する。この別々に制作を行った機構と映像を全て一か所に集結させると、アルファ版というROMが完成する。

ただし全てのパーツは完成しているものの、集結させただけのため、未実装の機能や想定外の動作を行うなどのバグも数多く散見される状態である。

この状態からゲーム企画が中心となり、デバッグを行いつつゲームバランス調整を行う。アルファROMから、約2か月前後でベータ版が完成する。このベータ版のROMを使用し、試打会を行うことになる。

試打会では、開発部全体だけではなく、一部の営業部員のほか、役員や外部有識者、時には一般ユーザーなども招聘し大規模な試打会を行う。

基本的には、ここで出た意見を集約し、資料化を行った上で役員確認を行い、役員の意見を踏まえて最終版へと進むことが多い。

例えば、試打意見において「通常時が退屈」という意見が散見される場合には、通常時の予告振分を大きく変更する、通常時のサウンドにメリハリをつけるなど、軽微な対応を検討することが多いが、営業部から否定的な意見が強く上がれば、別予算を組み、リスケを行った上で、再度、大幅なテコ入れを行うこともある。

この場合、様々な意見が入ることで、当初の企画仕様コンセプトからは大幅にズレることが多く、最終的な仕上がりは以前よりも悪くなることも少なく無い。

開発部は1年2年と年単位での開発に対し、営業部は都度の話に終始するため、「今の現場感」での意見が多く、流行を取り入れようとするあまり、当初のコンセプトが大きく崩れることも厭わない。

結果、場当たり的な対応となった機械は、その良さを発揮することができず、失敗することも多い。逆に、今の現場感を上手く取り入れて消化できた場合は、大成功することもある。これらの意見を上手く取り入れるのも開発部の大きな役目である。

8.申請
試打会終了後、役員承認が出ると、もう9分目といえる。試打会で出た意見をくみ取り、修正を繰り返して完成へと近づける。修正内容にもよるが、2ヵ月から6ヵ月程度で修正、検証、デバッグなどを経て、機械が完成する。

完成後は、保通協の予約取りを開始し、予約が取れれば申請を行うことになる。保通協の予約は基本的には申請の2週間前に行い、申請後は約1ヵ月半で結果が通知される。完成から最短で2ヵ月程度であるが、平均的には完成から3か月~4か月ほどかかる。

保通協の適合を受けると、その後、各都道府県警の公安委員会で検定を通し、検定通過後に当該都道府県のホールにおいて新機種を設置することが可能になる。

以上が遊技機メーカーの開発一連の流れである。新機種開発起案から市場にリリースされるまで、最短で2年、長いものでは4、5年かかるものも珍しくない。

しかし遊技機は同一タイトルにおける販売時期は非常に短く、一度市場に設置された後の増産はP、S合わせて年間数えるほどのタイトルしか無い。また、1機種当たりの開発費も膨大で、その開発期間も長いことから、非常にハイリスクなビジネスモデルといえる。

■プロフィール
荒井 孝太
株式会社チャンスメイト 代表取締役
パチンコメーカー営業、開発を歴任後、遊技機開発会社チャンスメイト(http://chancemate.jp/)を設立。
パチンコ業界をより良く、もっと面白くするために、遊技機開発業務の傍ら、ホール向け勉強会や全国ホール団体等の講演会業務など広く引き受ける。

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