●ぱちんこ開発者の独り言79
今回のコラムでは、前回コラムの続きから進めるため、前回のコラムを読んでない方は読んでから今回のコラムを読んでいただければと思う。
3:新規プロジェクト発足
役員会にて起案タイトルによる承認がなされると、プロジェクトが発足されることとなる。
まずは、各部門におけるプロジェクトの担当者を決めることになる。社内で挙手を取り、希望するスタッフの要望に応えることは多いのだが、前回コラムの通り、この段階で版権タイトル(無ければモチーフなど)やコスト、スケジュールなどがある程度決まっているため、開発部責任者の意向が働くことも少なからずある。
例えば、会社としてメイン機種として目標に掲げられている場合は、各メーカーのエース級のスタッフが当てられることが多いのは当然のことであろう。
他方で、会社からはあまり期待されていないタイトルの場合、スタッフの経験向上のため、あえて若手社員中心にプロジェクトを組むことも珍しくない。
このような機種の場合、会社からのプレッシャーも軽く、担当者が自由に伸び伸びと機種開発をすることができるため、思わぬヒット機種が生まれることが間々ある。
ここ近年、市場全体の落ち込みにより、経営のスリム化(開発費削減や開発タイトルの少数精鋭化)を図るメーカーが多く、このような若手中心のチャレンジプロジェクトが数少なくなっているのは非常に残念である。
4:各開発部門における担当割り振り
①ゲーム企画
全体ゲームフローの制作や、それに合わせたスペックの構築などいわゆる「企画」と呼ばれる部署のことであり、一番の花形部署ともいえる。
新機種の開発起案で使用される企画書の制作からプロジェクト全体の開発を見守る監督ともいえる存在である。
②映像開発
ゲーム企画が制作した企画書や仕様書を元に、液晶における映像制作を行う部署である。
CG会社やアニメ制作会社とのやり取りや、遊技機に適したエフェクト作成やコンポジットの制作等、全てこの部署が中心となり進める。
近年の遊技機は映像クオリティも格段に高くなっているため、主に映像制作の下請け会社との窓口となり、ディレクションを行うことが多い。
③ソフト開発
ゲーム企画が制作した企画書や仕様書を元に、プログラム開発を行う部署である。スペックに合わせたメインプログラム制作、ゲーム仕様のプログラムは勿論のこと、液晶演出、ランプや音などの素材をROMに実装するのもソフト開発の仕事である。
④電子回路設計
回路設計や電源やハーネスの電気設計等、主に制御に関わる電気回路設計を担当する部署である。機構設計とともに役物試作の品質評価を行い、量産化へとこぎつける担当でもある。
⑤機構設計
主にCADを使用し、機構や構造、部品等を設計する部署である。機構デザインとともにゲーム仕様に沿った役物を提案し、機構デザインが具体化したデザインを主に設計を行う部署である。
試作が出来上がった後は、電気回路設計とともにトライアンドエラーを繰り返し、量産へ向けて設計をブラッシュアップしていく。
⑥機構デザイン
筐体や盤面のプロダクトデザインや、パチスロのパネル、ぱちんこのセルなどのデザインもこの部署が担当するため、2Dデザインだけではなく3Dに関してもある程度の知識が必要となる。
⑦ゲージ
ぱちんこの釘配列設計を担当する部署である。
盤面には、液晶や役物が配置されているため、釘の配列は液晶や役物の配置によって全てイチから組み上げないといけない。また、図柄の変動秒数によっても有効スタートが変わり、シミュレーションによっても組み上げるべきゲージ構成は変わるため、想像以上にハードな仕事である。
⑧サウンド
遊技機の効果音やBGM制作を担当する部署である。声優を起用した場合のボイス収録やサウンドドライバの設計、実装後の音量調整やブラッシュアップも担当する。
以上が遊技機開発における主な制作部隊である。
この他に、後方支援部署として、型式試験申請業務を担当する部署や、特許などを包括的に管理する知的財産部署、版権使用交渉や確認を行うライセンス部署、ソフトウェア検証等のデバッグを行う品質管理部署等、様々な部署もプロジェクトに参加し、1台の遊技機を作り上げていくことになる。
次回コラムでは、試作品から量産、販売までの流れについて解説を行う予定である。
荒井 孝太
株式会社チャンスメイト 代表取締役
パチンコメーカー営業、開発を歴任後、遊技機開発会社チャンスメイト(http://chancemate.jp/)を設立。
パチンコ業界をより良く、もっと面白くするために、遊技機開発業務の傍ら、ホール向け勉強会や全国ホール団体等の講演会業務など広く引き受ける。