●ぱちんこ開発者の独り言73
ロム記憶容量が増えることによって、開発費の高騰、ひいては機械代の高騰につながるのでは、という推測記事が目立つが、(現在と同内容で開発を行った場合)結論からいえば開発費は安くなる。
前回のコラムでも少し言及したが、ここ数年、既にロム容量は限界を迎えており、殆どの遊技機メーカー開発では、映像の圧縮率の調整や最適化に努めている。圧縮された映像はロムに実装され、グラフィックスLSIという集積回路(IC)を使って液晶パネルに映像が表示される。このLSIと液晶パネル、圧縮率の組み合わせによっても表示される映像表現が変わるため、今現在だと映像完成後における圧縮率調整に意外と開発費用がかさむ。
現在の映像開発は、フルHD(1920×1080)やSXGA(1280×1024)にて映像が制作されることが殆どであり、サブ液晶搭載の遊技機だと掛け算式に映像が増える。このように綺麗に制作した映像は、既にドットバイドット(1:1)で実装することはほぼ不可能で、殆どの場合が圧縮されて実装されている。大体、2/3~1/2のレベルまで圧縮されるため、映像が汚くなることもしばしば発生する。
テクニックの1つとして、図柄変動中など動いている映像は画像の粗が目立ちにくいため、解像度を低めに設定し、スローになり始めた頃から停止時までの解像度を高めにすることでパフォーマンス良く圧縮するように尽力している。
当然のことながらトライアンドエラーが発生するため、同じ容量にてより多くの映像を実装し、よりクオリティを追求した解像度にするためには、多くのコストと時間がかかることになる。
一方、ロム容量に制限がなくなれば、ロム自体の購入費用はかかるが、上記に記載したようなトライアンドエラーを考えることなく、一度の実装で終了することも考えられるわけである。
また、遊技機メーカーはより性能が高いグラフィックスLSIを新規で購入することが多かったが、ロム容量制限が撤廃ともなれば、圧縮性能がより優れたLSIを購入する必要性はなくなるため、既存のLSIをリユースすることによって遊技機原価を下げることが可能である。より処理性能が高いLSIを欲する場合はその限りではないが、今市場にリリースされているLSIの処理性能は非常に優れており、そこに対する遊技機メーカーの不満は少ないのが現状である。
以上の通り、ロム容量が撤廃されることにより開発費が高騰に繋がるというのは大きな間違いである。そもそも、ロム容量を気にして演出ボリュームを少なくするようなメーカーは極少数であり、多くのメーカーは必要な演出物量を制作し、それをどのように実装するかに関して知恵を絞っている。その圧縮率の最適化にかける労力を違うところ(振り分けバランス調整等)に割けるだけでも、ロム容量上限撤廃というのは朗報であるともいえる。
余談ではあるが、上場しているLSIメーカーのアクセルが、投資家に向けたわかりやすいLSIの説明漫画を公開しているので、それをご紹介させていただく。
https://www.axell.co.jp/ir/sitemap/comic01.html
https://www.axell.co.jp/ir/sitemap/comic02.html
荒井 孝太
株式会社チャンスメイト 代表取締役
パチンコメーカー営業、開発を歴任後、遊技機開発会社チャンスメイト(http://chancemate.jp/)を設立。
パチンコ業界をより良く、もっと面白くするために、遊技機開発業務の傍ら、ホール向け勉強会や全国ホール団体等の講演会業務など広く引き受ける。