コラム:ぱちんこ開発者の独り言⑫
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●設定付きぱちんこの可能性(後編)
そもそもではあるが、規則で「設定は6段階まで認める」という記載であるため、新規則のぱちんこであったとしても設定が無い機械がリリースされる可能性がある。スロットでも山佐のハイパーリノは設定が1つしかないと話題になったが、あのようなイメージだ。設定が変わると大当り確率が変わるため、当然のことながら出率が変わる。そのため、設定毎の出率が規則内に収まっているかを型式試験業務における実射試験にて確認する必要があるため、試験期間が長くなるだけではなく、不適合を受ける可能性が高くなる。
出率を確認する実射試験は各メーカーがスペックやゲージ構成などを元にシミュレーションをかけ、仮想適合率を算出することが一般的である。例えば今までであれば、このスペックの適合率は80%と算出できた場合、設定が1つであれば80%で相違ないが、設定が2つ以上あった場合、設定1は80%、設定2も80%と仮になった場合、両方をクリアする確率は64%と大幅にダウンすることになる。また、低設定で運用されることを嫌ったメーカー側が意図的に設定を搭載せずに(または設定段階を少なくして)リリースする可能性も否定できない。
設定を導入することで、メーカー側からすると、試験期間が延びることや不適合率が上がることが想定される。一方、今考えられるメリットについても言及していきたい。
今までは慣例的に釘調整を行い、ホール側が割数調整を行ってきたのは事実としてある。その場合は、ホールの調整能力やユーザーの遊技技量によって、ホール側の意図と反して、想定スタート回数やTYが変わり、その結果、狙った割数に合わせることは至難の業であった。
またユーザー側からしても、本当にホール側が出そうとして出ているのか、たまたま出ているのかを見極めるのが難しい部分はある。しかしながら、ゲージはメーカーが意図した構成で運用されることになれば、ユーザーの遊技技量は保留3・4の止め打ちなどの限られた部分のみでしか差が出なくなり、その結果、設定による確率変更が出率変更の主となる要素を占めることになるため(スロットと同様のイメージ)ホール側の意図が、今までよりも反映されやすくなる。
それに、回らない、大当り中にアタッカーから玉がこぼれる、確変・時短中に玉が減るなどの諸問題は、ホール側の調整が悪いとユーザーから糾弾されることが多かったが、今後は、メーカー側のゲージ構成が悪いというのが如実に判明していくように、今後は、機械性能による責任の所在は、より明確になっていく。
最後に「設定が付いたことによる、今までには無かった特殊なスペックは?」と聞かれれば、普通に作った場合に関しては確率が変更することしかできないため、今までと大きな違いをもった機械が「あるスペック」を除いて、なかなか難しいと思われる。
その「あるスペック」とは、ズバリ「ST機」(または、ある特定の回転数分、電サポが付く機械)のことだ。
皆様ご承知の通り、ST機は、特定の大当り後に特定の回転数のみ高確率になるというスペックである。設定を搭載することで、低確率だけではなく、高確率も比例するように変更していくということは、ST回数が変更されることは無いが、高確率は設定によって変化していくため、ST機は設定を変えることで継続率が変化することになる。
作り方にもよるが、確変と時短を組み合わせることで、合算継続率を60%代から80%程度まで幅を設けることも可能だったりする。但し、以前にも私のコラムで伝えた通り、内規により各状態の継続率は65%以内と決まっており、これは設定によっても厳守しなければならない決まりなので、その範囲内での数値となる。
そもそもの大当り確率が当たりやすく、または当たりにくくなるだけでは、今までになかったスペックを作り、イノベーションをホール、ユーザーに提供するというのは難しいが、設定という同じ機械においてもホール側の設定による大当り確率を変更することにより、結果として出玉性能が変わり、出玉演出の体感が変わっていく機械を作ることは可能であるため、私も含め、開発側から新時代の遊技機に様々な可能性を模索し、面白い機械を提案していきたいと思う。
荒井 孝太
株式会社チャンスメイト 代表取締役
パチンコメーカー営業、開発を歴任後、遊技機開発会社チャンスメイト(http://chancemate.jp/)を設立。
パチンコ業界をより良く、もっと面白くするために、開発だけではなくホール向け勉強会や講演会など多数開催。