コラム:ぱちんこ開発者の独り言㉛
●音量・光量調整機能と全日からの要望
全日遊連といえば、今から30年ほど前に全日本遊技業組合連合会として発足し、加盟ホールは全国で9,681店舗(平成29年12月時点)という、ホール団体の中でも最も大きい組織である。遊技産業健全化推進機構の賛同ホールが10,443店舗(平成30年5月時点)であることから、全国ホールのおよそ9割以上が加盟している。
その全国ホールの代弁者ともいえる全日遊連の理事長よりぱちんこ、スロット共に音量と光量の調整機能について要望が出た。端的にいうと、下記の通りである。
・音量調整範囲の上限値を各ホールで設定できるようにする
・音量の調整範囲は多段階とし、全メーカー共通とする
・セキュリティ音は設定値に比例して上下する
・光量の調整は多段階とする
要望の理由として、全日遊連が遊技ファンを対象としたアンケートによって、ホールに対する不満の大きな要因として「遊技機の音量」が挙げられており、中・高年齢(40歳以上)を中心に遊技機の「大きすぎる音」や「眩しすぎる光」を深いとする傾向が見受けられる、とのこと。
ユーザーアンケートの結果とあるが、そもそも遊技機メーカー側も、大きすぎる音を不快と思うユーザーが一部いるということを認識しているため、以前より日工組では内規として、「工場出荷時85dB以下」「最大出力時95dB以下」というような規定がある。この数字がどのぐらいかというと、下記のようなイメージである。
70~80dB … パチンコ店の店内
80dB … 地下鉄の車内(窓を開けた状態)、ピアノ(正面1mバイエル104番)
90dB … 騒々しい工場の中 犬の鳴き声(正面5m)
100dB … 電車が通るときのガード下
(参考:http://www.toukansoku.co.jp/products/souonn7.html)
そもそも70dB~80dBの騒がしい環境下にホールはある。遊技機の音だけではなく、ガラスやドル箱に当たる玉の音や、補給機の音など、遊技機以外にも騒音の元となるものは多い。そう考えた場合に、遊技機の音をユーザーが拾うためにはある程度、周辺の音環境とは差を設けなければならないため、85~95dBというのは悪くない数値であるようにも感じる。
また、上記要望の1にある「音量調整範囲の上限値を各ホールで設定できる」というのは、本当にユーザーの要望に対する回答なのであろうか。ユーザーは音が煩いと言っているだけで、音量上限値をホール側が設定できることを望んでいるのであろうか。また、セキュリティ音を設定値に比例させるのは、不正な手段で出玉を獲得するゴト師に悪用される可能性があるため、得策ではない。
遊技機のボリューム設定は、マスターボリュームに準拠される。マスターボリューム値を低くしていれば、必ずその音量設定からスタートされ、ユーザーがボリューム調整をしない限り、その設定は変化することはない。また、ある一定時間が経過すれば、遊技機のボリューム設定はマスターボリューム値に戻る仕様となっているメーカーが多い。
私が知る限り、自店の環境に合わせてマスターボリュームを調整しているホールは、それほど多くない。マスターボリュームさえ設定すれば、ホール側の意図する遊技機音量に合わせることは可能であり、それよりも音を大きくする、小さくする。というのは、ほかならぬユーザーの意思なわけであるため、そこに口を挟むのはプラスではない。
テレビのボリューム値も各メーカーによって音の大きさが異なるため、遊技機において段階を統一したところで、A社とB社のボリューム値が同じでも大きさが異なるというのは間違いなく発生するため、全メーカー共通にするのは意味がない。どうせ要望するのであれば、各ボリューム値のデシベルを取扱説明書に記載してほしいという要望であれば現実的だ。そうすれば、希望のデシベルに近いボリュームを、マスターボリュームとして設定すれば、それに近しいことは容易に可能だからだ。
要望を出すのは悪いことではないが、その前にできることが沢山あるということは認識すべきである。
荒井 孝太
株式会社チャンスメイト 代表取締役
パチンコメーカー営業、開発を歴任後、遊技機開発会社チャンスメイト(http://chancemate.jp/)を設立。
パチンコ業界をより良く、もっと面白くするために、遊技機開発業務の傍ら、ホール向け勉強会や全国ホール団体等の講演会業務など広く引き受ける。