●警察庁の意向もあって決めた自主規制
そもそも、高射幸性パチスロ機の設置比率に関する自主規制は、全日遊連、日遊協、日工組、日電協、全商協、回胴遊商の6団体合意に基づき、すでに高射幸性旧基準機の優先撤去に努めてきた業界側に対し、具体的な削減目標設定を求める警察庁の意向を受けたものだった。
そこで流れを整理すると、今回の問題のスタートは2015年6月24日に全日遊連が決議した新基準に該当しない遊技機の自主規制策にさかのぼる。
新基準に該当しない遊技機の自主規制とは、メーカー団体の自主規制により、パチンコが同年11月から大当たり確率の下限が320分の1以下の遊技機のみ、パチスロは同年12月から主基板制御で、かつペナルティー機能非搭載の遊技機しか市場導入できなくなることに伴うもの。過度なのめり込み防止の観点から、これら新基準機への円滑な移行にホールも協力すべきとの判断だった。
具体的には、新基準に該当しない遊技機の設置比率を、パチンコは2016年12月1日までにパチンコ設置台数の30%以下、17年12月1日までに20%以下にし、パチスロは16年12月までにパチスロ設置台数の50%以下、17年12月までに30%以下にすることを決議。
さらに、射幸性抑制は業界全体で推進すべきだとする警察庁の意向もあって、2015年9月30日に主要6団体が締結したのが「高射幸性遊技機の取扱いに関する合意書」と「高射幸性遊技機に関する申合せ」で、新基準に該当しない遊技機のなかでも特に射幸性が高いとされる遊技機について、ホールは優先して撤去に努めることなどを申し合わせた。
だが、パチンコはその後、「検定機と性能が異なる可能性のあるぱちんこ遊技機」問題により当該遊技機すべてが撤去され、高射幸性機の優先撤去はパチスロだけの問題となる。
その現状について、警察庁保安課の担当課長が講話で、必ずしも6団体合意のとおりになっていないと指摘したのが昨年1月19日の全日遊連理事会。新たな業界の自主的な取り組みを早期に決定するよう促したため、設置比率の自主規制決議に至ったわけである。
●5%以下とする設置期限を見直した場合の影響
今年8月末現在、高射幸性旧基準機の設置比率は16.35%(日電協調べ)。この比率を来年1月末までに5%以下とする期日目標を15%以下のときに続いて先延ばしした場合、どんな展開が予想されるのか?
店舗間格差が広がる可能性があると読むのは老舗ホールの営業責任者。「倉庫にある認定期間中の高射幸性旧基準機の再設置や同一県内の系列店間移動で、1台でも多く設置しようとするホールが現れる。その数%の差が営業的には小さくない」と言う。
逆に、助かる中小ホールは多いはずとの見方もある。中堅ホールの経営者は「この夏頃から廃業店舗が増えているが、15%以下とする期日を先延ばししていなければ、撤退はもっと加速していた。5%以下とする期日先延ばしも決して中小の逆風にならない」と強調する。
では、業界全体への影響はというと、「世間から約束を守らない業界だとみられかねない」と某ホール団体の役員。実際、すでにインターネットには業界の良識が問われているなどの記事が出ている。
しかし、「守れるものなら、守りたい。だが、全日遊連は全国のホールを束ねる組織なので、最大公約数を選択せざるを得ない。6号機の供給面というホール以外の問題で、大方のホールが足並みを揃えて守れる環境にないならば、見直すのが組合のかじ取り」と某県遊協の理事長は理解を求める。
「当初から予想できた展開で、実現困難な約束をしたのがそもそもの間違い」(某ホール団体役員)との意見もあるが、それは今、口にしてもせんないこと。「自主規制は、目安として一定の意味はあった」(地方のホール関係者)との声もある。どのような方向に進むにせよ、業界外からの問いかけには一枚岩で答えられるよう、全日遊連の執行部は組合内のコンセンサスをまとめてほしいと思う。
■プロフィール
中台正明
1959年、茨城県生まれ。フリーライター。大学卒業後、PR誌制作の編集プロダクションなどを経て、1996年3月、某パチンコ業界誌制作会社に入社。2019年2月に退職し、フリーとなる。趣味は将棋。