コラム:ぱちんこ開発者の独り言⑭
●版権とぱちんこ(後編)
ほとんどのメーカーがそうであると思うが、基本的には開発者が製作したい版権を使った企画提案書を会社にプレゼンを行い、会社承認を得ることができれば晴れて開発に着手できる。
開発部にはライセンス担当部署があり、その部署が窓口となり、タイアップ可能かどうかを版権元などに確認することが多く、基本的にはライセンス部が版権元との折衝を行う。
昨今では、遊技機タイアップも増え、ライセンサー(実施許諾者)の理解も深まったが、数年前までは、そのイメージの悪さもあり、間に代理店等を挟むことも多かったため、トラブルが発生することが間々あった、中には刑事事件にまで発展したものもある。
当然のことながら、有名タイトルである版権は、そんなに簡単には許諾が下りない。誰もが聞いたことあるような版権だと、既にメーカー複数社から打診があった後で、けんもほろろに断られることが多い。そのように、どのメーカーも欲する有名タイトルが許諾可能になった際には、「コンペ案件」になることがよくある。
ある日、版権元からメーカーのライセンス部に連絡が来る。「A」という版権がコンペになりました。入札希望の会社は、Aの企画概要書及び、入札希望額を添えて、○○日までに連絡ください、と。ぱちんこ(スロット)の方向性を確認するために企画書の提出を求められることが一般的ではあるが、基本的には、入札金額が最も上位の会社で決まることになる。
このような場合は、MG(ミニマムギャランティ)を設定するのが一般的である。MGとは、最低保証金額であり、「当社がこの版権にてタイアップ機を製作した場合は、この金額分は最低保証しますよ」というものである。
仮に1億円と設定した場合、1台あたりのロイヤリティが2,500円×4万台保証でも1億円であるが、1万円×1万台保証でも1億円となる。そして、このタイアップ機が3万台売れたとしたならば、前者の契約であれば4万台に達していないので1億円の支払いとなるが、後者の契約であれば1台1万円契約のため、3億円の支払いとなる。
このように、版権元は各社からのMGとその台数を計りにかけながら、最も売上が稼げる会社に許諾したいと考える。同時に、版権元はメーカー実績も割と気にしており、あまり売れてないメーカーが最も高い値段を付けたとしても、全体としてプラスにならないと考えれば、次点のメーカーに許諾したり、そもそも実績のないメーカーに許諾を出すことを拒む版権元も少なくない。
版権元も、ぱちんことのタイアップに関して、マイナスイメージではなく、むしろ好意的にコラボし、相乗効果で高めあおうとする風潮が昨今は多くあるためである。その背景にはエヴァを筆頭とした成功例が少なからず存在するからだ。
これらの版権契約は、契約形態にもよるが、ぱちんこ・スロット合わせて許諾契約することも少なくない。数億円から数十億円の契約ともなると、1タイトルでは到底回収できる金額にならないため、P・S合わせて4タイトル(各2機種ずつ)までタイアップ可能といった形での契約もあるため、同じメーカーから立て続けに同一版権機が出るのは、このような背景(版権費用を回収したい)があるのかもしれない。
業界が縮小傾向であるというのもあるが、一部の強力な版権を除き、2014年頃をピークとして、版権タイアップ機のMGは下がり続けている。ピークの2013~2014年頃は聞いたこともない深夜アニメ版権であっても、MG(3,500円×2万台)といった強気な条件も少なくなかった(今では、その半分以下で交渉可能)。
また、有名週刊誌で中長期にて連載していたような作品になってくると、数億円から中には数十億円というのもあり、まさにパチンコ版権バブルであったが、最近ではこのような金額でタイアップする新規版権もめっきりなくなった。ある意味、健全になったということであろう。
最後にではあるが、版元許諾可能であり、金額的にも現実的であったとしても、最終的にタイアップ機の製作を承認するのは、各メーカーの社長及び役員である。
どれだけ素晴らしい企画アイディアとそれにマッチした版権タイアップを説明したとしても、メーカー上層部が、その版権を知らなければ一刀両断でNGを出されることが少なくない。有名版権はほぼ100%許諾が下りないため、開発者は自身が面白いと思うアニメ等を青田買いしようと日々試行錯誤しているが、その努力は上層部に伝わらないことも多いのである。
荒井 孝太
株式会社チャンスメイト 代表取締役
パチンコメーカー営業、開発を歴任後、遊技機開発会社チャンスメイト(http://chancemate.jp/)を設立。
パチンコ業界をより良く、もっと面白くするために、開発だけではなくホール向け勉強会や講演会など多数開催。