●ぱちんこ開発者の独り言72
平成24年1月19日から適用となり、長らく内規として運用されていた「演出表示器に使用するデータ用ロムの記憶容量」についての内規が、平成31年2月の改定によって一文が削除された(すなわち撤廃となる)。適応日は、2019年5月1日の型式試験申請より実施されるわけだが、今回のコラムではその内容について簡潔にまとめたいと思う。
今までの遊技機において、演出表示器に使用するデータ用ロムの記憶容量の上限は、総じて64ギガビットまでと規定されていた。まずは、前提条件として「演出表示器におけるロム容量」について簡単にご説明させていただく。
演出表示器とは、遊技機における液晶のことであり、この液晶演出における全てのロム容量が64ギガビットまでと内規で規定されていた。ここでポイントとなるのは「ギガビット(Gb)」であるということ。
64Gb(ギガビット)は、8GB(ギガバイト)である。DVDが1枚あたり4.7GB、ブルーレイが1枚あたり25GBと考えれば、昨今のぱちんこ台のロム容量制限がいかに厳しいか分かってもらえると思う。
平成23年(2011年)に、各メーカーのぱちんこ台における液晶の大型化を始め、美麗液晶の追求やハイエンドな3DCGを追い求めていった結果、遊技機の価格高騰に歯止めが利かなくなる恐れがあるとして、演出表示器のロム容量に制限をかけることにより、液晶開発費を抑えようとする動きがあり内規が制定された。
2011年当時は、64Gbのロムを使っているメーカーはごく一部に限られており、液晶開発に力を入れている遊技機と呼ばれるものでも32Gbが殆どであったが、ホールの購買力も今現在よりも高く、美麗液晶を追求した遊技機が販売台数を大きく伸ばす傾向が強かったため、多くのメーカーが1、2年もすれば64Gbでも全くロム容量が足りないという事態を引き起こしたのである。
ここで本末転倒ではないか、という意見になろうかと思うが、その通りとしか言いようがない。しかしながら、高クオリティのハイエンド3DCGや、2Dアニメにおける撮影処理、予告やリーチで使用される遊技機的な見せ方や煽りに特化したエフェクトなど、一度引き上げた映像クオリティは、遊技機メーカー開発者だけではなく、遊技機メーカー全体、ホール、ユーザーでさえも慣れてしまい、今や、コスト削減して開発し実装したら、すぐにランクが一段下がる。というレッテルをはられるようになり、メーカー各社の販売台数にも影響が出始めた。すなわち、液晶クオリティを追求した結果、今までのクオリティが通用しなくなったのは否定できない。
この辺りは、近似業界であるアニメ業界でも同様で、一度引き上げた映像クオリティを下げるとユーザーから圧倒的にダメ出しをされる傾向が強いため、クオリティを担保した状態で作画枚数を少なくすることでコストバランスをとっているのはご承知の方も多いであろう(その結果、最近のアニメは動かないと揶揄されるが、作画クオリティを担保する方が受け入れられる傾向が強い)。
また演出物量の問題もある。昨今における遊技機と、(開発期間等を勘案すると)おおよそ10年近く前の遊技機では、ユーザー満足度における演出物量にも大きな違いがあり、どのような作り方をしても64ギガビットでロム容量が足りなくなってきたのである。
しかし、内規があるためロム容量は長らく64ギガビットでの対応だったわけであるが、その解決策として、遊技機メーカーが追い求めたのは、ロムの圧縮性能の向上であった。
次回コラムでは、ロム容量撤廃における遊技機開発においての影響等について言及していく。
荒井 孝太
株式会社チャンスメイト 代表取締役
パチンコメーカー営業、開発を歴任後、遊技機開発会社チャンスメイト(http://chancemate.jp/)を設立。
パチンコ業界をより良く、もっと面白くするために、遊技機開発業務の傍ら、ホール向け勉強会や全国ホール団体等の講演会業務など広く引き受ける。