3. ダービー物語事件
遅々として導入が進まないCR機の現状に業を煮やす行政側は、当然その原因を「現金機の射幸性の高さ」と考えた。元々が合法である「確率変動機能搭載のCR機」と違い、現金機は保通協適合機種ではあるものの、「型式試験時はノーマル機」であるにもかかわらず、導入すると「連チャン機」に化けてしまう。「INのクリア化」を進めるべくCR機導入促進を図りたい行政側としては、この過激な現金機をなんとかしなければならない現状があった。その標的となったのが「ダービー物語」だ。
1993年に登場した平和製「ダービー物語」は、確率235分の1で16ラウンド、10カウントで15個賞球、大当たり払い出し2,400個というスペックだった。ノーマル機だが、当時の現金機の大半がそうであったように「一定条件が整えば連チャンする」仕様であった。
この機種は、大当たり中にアタッカーに拾われた玉が5個連続でアタッカー内の「Vゾーン」に入賞した場合、台枠などの装飾ランプが激しく光るという「演出」があった。そして、この「激しく光る演出」 が発生するとスタックオーバーでエラーが発生し、保留玉の3個目と4個目に取得している乱数が書き換わってしまう。書き換わるパターンとしては「3個目のみ」「4個目のみ」「3・4個目両方を同一値に」という処理があり、エラー処理用として指定された16個の乱数のうち、いずれかに書き換わる。もちろん、この16個のうち一つは、大当たり乱数値だ。
従って、保留玉3個目、または4個目は再度大当たりする可能性が高い。また、保留玉3個目で連チャンした場合、4個目でも大当たりする可能性が高く、当時はトリプルが頻発する台として人気が高かった。ただし連チャン性能を引き出すには、盤面に打ち出された玉の大半が「Vゾーン」へ向かうように釘調整をする必要がある。つまり型式試験時にはVゾーンへ向かいにくい釘調整でノーマル機仕様だったものが、ホール導入時には大半がVゾーンへ向かう釘調整となって連チャン機仕様へと生まれ変わる。この「保通協型式試験時」と「ホール設置時」での釘調整の違いが明確である点に行政は目を付けた。
1993年10月19日、埼玉県警と大宮署が平和本社及び工場を家宅捜査、同時に埼玉営業所と県内の設置店8軒から約200台の「ダービー物語」を押収したと朝日新聞等が伝えた。容疑は「風俗営業適正化法違反(無承認変更)」。アタッカー周辺の釘曲げをして連チャンが作動し易いよう調整を加えていたというものだった。この当時は、遊技機を納品したメーカーの営業マンが設置後、オープン用に釘調整をするのが通例であったため、10月25日にはそのホール店長に合わせ、メーカーの埼玉営業所社員も無承認変更の容疑で逮捕されている。さらに、後には埼玉営業所所長、係長を含め、5人が同容疑で逮捕される大事件となった。事件は埼玉県だけに留まらず、さらに静岡、仙台、北海道にも波及していく。ただし、この事件は最終的に全員が起訴猶予処分で釈放され、有罪となることはなかった。
実はこの事件以前から、行政側からはメーカー側に対し自粛の要請が頻繁にあったようだ。日工組としても1993年7月に、一部機種の販売自粛を行っている。そして1993年10月15日に日工組は緊急会議を開き、同年3月31日以前に申請された連チャン機の受注は10月23日まで、出荷は11月6日までとすることを決めた。そして決定からわずか4日後に、この事件が発生している。CR導入推進への、行政の本気度が如実に表れた出来事といえるだろう。
翌1994年。CR機普及への姿勢を行政に見せる必要に迫られた日工組は、内規を緩和。確率変動は10倍アップまたは最高50分の1までOKとした上で、一度確変に入れば次の次の大当たりまで続く「2回ループ」を認めた。そして伝説の遊技機ソフィア・西陣製「CR花満開」が誕生するのだが、それでもまだ簡単にはCR機導入は加速しなかった。
(以下、次号)
■プロフィール
鈴木 政博
≪株式会社 遊技産業研究所 代表取締役≫立命館大学卒業後、ホール経営企業の管理部、コンサル会社へ経て2002年㈱遊技産業研究所に入社。遊技機の新機種情報収集及び分析、遊技機の開発コンサルの他、TV出演・雑誌連載など多数。