これまで、マカオではテーブル及びマシン台数上限や1台あたりの年間売上下限額の設定はなかった。テーブル及びマシンの新規割り当ては、新施設の開業時などのタイミングでコンセッション事業者からカジノ監理当局に申請を出し、認可を受けるかたちとなっている。現行コンセッションの初期には新施設のオープンが相次ぎ、認可台数が急増したが、マカオのカジノ売上がピークに達した2013年以降は抑制に舵を切り、2022年までの10年間の年平均カジノテーブル台数増加率を3%以内にすると明瞭な目標数値を掲げた上、認可にあたってノンゲーミング(非カジノ要素)に対する投資規模を審査基準とすることが原則とされた。かつてのマカオでは、テーブルを増やせば売上が上がるという神話が存在し、事業者による割り当て獲得合戦が繰り広げられたが、2013年以降もテーブル数は微増が続いたものの、売上はピークを上回ることができておらず、神話は崩壊している。
このような背景もあり、政府は新たに台数上限と売上下限額を設定することについて、コンセッション事業者がそれぞれ割り当てられたテーブル・マシンを有効活用することを促したいと説明している。
今回政府が示した数値と現状の比較をご紹介したい。カジノ監理当局発表による最新データを参照すると、今年6月末時点で稼働中のテーブル数は6006台、マシンは1万2042台で、ほぼ上限数値そのままといえる。ただし、コロナ禍インバウンド旅客数減に伴う需要減を反映した数字でもあり、コロナ前の2019年末時点ではテーブル数が6739台、ゲーミングマシンが1万7009台だった。
売上下限額については、単純計算でテーブル6000台×700万パタカとマシン1万2000台×30万パタカを合計して456億パタカ(約7721億円)となる。コロナ禍でカジノ売上は低迷しており、コロナ前2019年が年間約2925億パタカ(約4兆9526億円)に対し、今年の見通しは約500億パタカ(約8466億円)にとどまるが、それでも下限額を上回ることになる。
台数上限、売上下限額とも、コロナ禍で最悪の現状を踏まえたものと見てとれる。コンセッション事業者にとって売上下限額はプレッシャーを感じるほどではないだろう。一方、もし現行の6社が揃って次期ライセンスを獲得したとして、テーブル及びスロットマシンの割り当て台数が現状維持となるのか、シャッフルして再割り当てとなるのかは、気を揉むところとなりそうだ。
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/