懸念されるのはやはり風営法上の上限に近付いているという点だ。東京都の東遊商スキームは、最低提供価格は枠組みとして民間(卸、ホール側)の取り決めだが、上限価格は風営法施行規則の規定になる。今は上限価格は9,600円+消費税額960円の10,560円であり、もうあと500円ちょっとしか法令上の上限まで余裕がなくなっている。
これについては、実際のところ、3月11日時点での田中貴金属と三菱マテリアルの金地金1gの店頭価格が8,234円となっていて、これは税込みだ。税込みの場合は風営法上の上限は10,560円であり、その差は2,200円以上ある。東京都は過去の値上げのときも梱包側を特殊シールなどの貼付によって変更したことがあり、地金を単独で賞品提供しているわけではない。ならば一応はあと500円ちょっとで上限に達するわけだが、地金そのものの価値としてはまだ少し余裕がある。
が、ウクライナ情勢だったり世界的なコロナ禍の推移、さらには円相場や世界経済の今後の推移などが複雑に関係して金相場が成立しているわけで、それを予想するのは困難である。世界的にはまだまだ高騰するのではないかと目されているようで、それがいくらまで高騰するのかは不明だ。その意味では仮に理論的には2,000円以上上限まで余裕があるとはいえ、懸念は続くことになる。そもそも本紙が発行されている段階で田中貴金属や三菱マテリアルの店頭価格が8,234円からどうなっているかも不明である。
金地金をいわゆる特殊景品に採用するということは、90年代の東京都の暴排の取り組みにおける肝の部分の一つであった。当時の三店方式に対する最新の考え方では、業界側も警視庁側も金地金が最も理想的だと判断したわけだ。賞品としての価値がいきなり棄損される心配はないし、長期間の保存・保管も容易。地金の場合は貴金属ではなく工業製品の原材料でもある。有史以来、世界中で最も信頼されてきた資産価値もある。
金地金を三店方式のスキームで採用するのは、法律的な懸念がほとんどなくなるという利点がある。唯一の欠点は金は世界中で流通するものであり、相場が明確に存在することだ。そして風営法上に賞品提供限度額規定、つまり上限の10,560円が明記されているということである。
東京都が金地金を採用したとき、たしか金相場は1g1,500円から1,800円付近だったと記憶している。そこから現在の8,000円超レベルということは、実に4倍以上だ。日本においては日銀が現在のところインフレ目標2%を掲げている最中であり、それはすなわちインフレが思うほど進んでいなかったことを意味している。30年ほどの期間とはいえ、4倍超えはもちろん警視庁も想定外だったことだろう。