【コラム】新型コロナがマカオのカジノ業界を直撃(WEB版)/勝部悠人

新型コロナ防疫対策の一環で15日間の一時休業となったことを受け
シャッターを下ろしたカジノ施設(筆者撮影)

中国・湖北省武漢市に端を発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が世界各地へ拡大の様相を呈している。マカオでは防疫対策の一環として全てのカジノ施設が15日間(2519日)にわたって休業するという前代未聞の事態となった。

2月の売上大幅減、入境制限も影響

マカオカジノ規制局DICJ公表資料によれば、2月の月次カジノ売上(GGR=Gross Gaming Revenue)は前年同月から約9割減の約31億マカオパタカ(約417億円)という衝撃的な数字を記録。実に15年前の水準にまで落ち込んだことになる。

これほどまでに2月のカジノ売上が低迷した理由として、15日間の休業中の売上がゼロだったことは大きいが、1月下旬から中国当局による個人・団体向けマカオ訪問許可の新規発給停止やマカオ政府による流行エリア(中国本土の一部省市及び他の高流行国)滞在歴のある旅客を対象とした入境制限の段階的強化に伴うインバウンド旅客数の激減、カジノ再開にあたり交差感染リスクを軽減するためのテーブル及びスロットマシンの稼動台数制限といった運営条件が課されたことなど、月の半分あったオープン日も売上が伸びなかった状況が挙げられる。

マカオのカジノ運営会社の休業中の1日あたりの赤字額は、MGMが約150万米ドル(約1.6億円)、ウィンが約240260億米ドル(約2.62.8億円)などとしており、その大半が人件費という。また、マカオのゲーミング(カジノ)機器メーカーの業界団体にあたる澳門娯楽設備廠商会(MGEMA)は、カジノの一時休業の影響として施設への機器の設置スケジュールの遅れやカジノ運営企業の調達予算縮小などが予想され、ビジネスの停滞につながる可能性があるとしている。

苦戦を強いられているのはカジノ業界だけではない。カジノ施設が休業して以降、IR(統合型リゾート)併設の高級リゾートホテルを含む29軒(3899室分)が一時休業に入った。カジノ施設の営業が再開したのを機に、一時休業中だったホテルも相次いで営業を再開したものの、客室稼働率は低迷。マカオ政府観光局によれば、215日から21日までの1週間の営業中のホテルの平均ホテル客室稼働率はわずか11.8%で、2003年のSARS流行時を下回ったという。参考までに、昨年通期では9割を上回っていた。MICEイベントについても、5月頃にかけて開催予定だったものの多くが中止や延期を余儀なくされている。毎年5月中旬にマカオで開催されているアジア最大規模の国際カジノ見本市「G2E Asia2020」も影響を受け、7月末に延期することが発表済みだ。

いち早く防疫対策を講じたマカオ政府

マカオで目に見えるかたちで新型コロナ防疫対策が講じられはじめたのは今年1月頭のこと。以降、政府が矢継ぎ早に防疫策の強化を進めると同時に、マスク有償配給制度の立ち上げ、毎年恒例となる1万マカオパタカ(約13万円)の現金配布の3ヶ月前倒し実施、3000マカオパタカ(約4万円)の電子商品券の配布、中小企業支援策といった幅広い民生・経済対策も合わせて打ち出し、生活の不便や経済的な痛みを伴う防疫策を市民の理解を得た上で実施することができた。政府は歳出の5年分以上という潤沢な財政準備資産を抱えており、有事にあたってこれを有効活用する方針を示しており、その原資となったのは、マカオならではの財源、カジノ税にほかならない。

カジノ施設における一時休業に至るまでの一連の防疫対策を振り返ると、1月上旬からゲーミングフロアのゲスト及び従業員入口に体温測定装置が順次設置され、22日からゲーミングフロアでの業務に従事するスタッフのマスク着用を義務化、27日から入境前14日以内に湖北省滞在歴のあるゲストの入場を禁止、21日からはゲストのマスク着用義務化と続いた。220日の再開後もこれらの措置は継続中で、ゲーミングフロアにおける飲食物の提供も見合わせとなっている。

マカオは人口約67万人、面積約32平方キロ(山手線の内側の半分程度)という小さな地域だが、年間インバウンド旅客数は3940万人超(2019年実績)にも達し、その7割が中国本土からの旅客だ。人口密度の高さ、中国本土からのインバウンド旅客数、さらにはカジノの空間特性を考慮すればアウトブレイクも容易に想定され、リスク管理上、厳格な防疫対策を講じたのも当然の対応といえるだろう。

現時点で新型コロナの終息時期は見通せない。前述のMGEMAは、マカオのカジノ業界が通常レベルに復調するタイミングとして、新型コロナが終息状態となり、中国本土からマカオへの渡航制限が撤廃された時点からおよそ3ヶ月後になるとの見通しを示している。マカオの街、そしてカジノに賑わいが戻るまで、しばらく時間がかかりそうだ。

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/

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