【コラム】アフターコロナ2年目にしてマカオカジノ運営全6社が黒字に(WEB版)/勝部悠人

新型コロナの世界規模でのパンデミックといえば、すっかり遠い昔話のようだが、カジノを柱とするインバウンド依存度が高い経済体にも関わらず、2020年の年初から2022年の年末まで丸3年にもわたって厳格な水際措置が講じられたマカオでは、アフターコロナで社会・経済の正常化が進んでいるものの、依然として回復の途上にある。

マカオにとってアフターコロナ初年となった一昨年(2023年)通期のカジノ売上(粗収益、Gross Gaming Revenue=GGR)は前年から333.8%増、コロナ前2019年の62.6%に相当する1830.59億パタカ(日本円換算:約3兆3104億円)まで急回復。2年目となる昨年(2024年)についても勢いを維持し、前年から23.9%増、2019年比79.7%の2267.82億パタカ(約4兆1010億円)まで回復した。

すでにマカオのカジノ売上はマスが牽引する状況となっており、インバウンド旅客数が順調に戻っていることが大きな後押しとなっている。インバウンド旅客数についてはカジノ売上を上回る勢いで、2023年と2024年の2019年と比較した回復率はそれぞれ71.6%、88.6%に達した。

目下、マカオにおけるカジノ施設数は30軒で(昨年末時点と変わらず)、政府とコンセッション(経営権契約)を結ぶ6つの民間事業者が運営している。

去る4月23日及び4月30日付のマカオ特別行政区政府公報(官報に相当)に6つのカジノ経営コンセッション事業者=SJMリゾーツ社、ウィンリゾーツマカオ社、 ヴェネチアンマカオマカオ社(サンズチャイナ)、ギャラクシーカジノ社(ギャラクシーエンターテインメントグループ)、MGMグランドパラダイス社(MGMチャイナホールディングス)、メルコリゾーツマカオ社の昨年の業績が揃って掲載された。

2022年は6社すべてが赤字、2023年は5社が黒字、1社が赤字だったが、2024年はアフターコロナで初めて6社すべてが黒字に。6社の利益合計は前年から59.4%増の293.3億パタカ(約5304億円)に上った。個別の黒字額と前年比は下記の通り。

・MGMグランドパラダイス社:57億パタカ(約1031億円)54%増
・ギャラクシーカジノ社:85億パタカ(約1537億円)22%増
・ヴェネチアンマカオ社:81.2億パタカ(約1468億円)32%増
・メルコリゾーツマカオ社:18.8億パタカ(約340億円)348%増
・ウィンリゾーツマカオ社:45.3億パタカ(約819億円)66%増
・SJMリゾーツ社:6億パタカ(約109億円)*前年は15.9億パタカ(約288億円)の赤字のため前年比データなし

2023年に唯一赤字だったSJMリゾーツ社については、コロナ禍の真っ只中にある2021年に同社としてコタイ地区で初めての旗艦統合型リゾート(IR)施設となるグランドリスボアパレスをオープンしており、これが本格的に利益貢献する段階になったといえる。

参考までに、2019年の6社の利益合計は413億マカオパタカ(約7469億円)に上った。その後、コロナ禍の3年間の6社合計の赤字推移は2020年が330億パタカ(約5968億円)、2021年が191億パタカ(約3454億円)、2022年が369億パタカ(約6673億円)で、累計890億パタカ(約1兆6094億円)に達した。アフターコロナ2年間累計の黒字は477.2億パタカ(約8629億円)となっており、コロナ禍3年分のマイナスを挽回するには、もうしばらく時間がかかりそうだ。

今年(2025年)の状況については、第1四半期までのデータで、インバウンド旅客数が前年同時期から11.1%増の986.3万人、GGRが0.6%増の576.57億パタカ(約1兆426億円)で、2019年同時期からの回復率はそれぞれ95.2%、75.7%となっている。いずれも昨年第4四半期からやや回復の勢いがスローダウンしている状況。マカオの財政予算上の年間GGR目標は、昨年が2160億パタカ(約3兆9061億円)、月額にして180億パタカ(約3255億円)で、無事にクリア。しかし、今年度目標は2400億パタカ(約4兆3401億円)、月平均200億パタカ(約3617億円)に引き上げられており、記事執筆時点で年初から4ヶ月連続で未達となっている。

マカオのインバウンド旅客数及びカジノ売上がスローダウンしている背景として、国際情勢が混沌とした様相を呈し、米中関係が不透明感を増し、また米ドルに対して15年来の人民元安(マカオのカジノで使われる香港ドルは米ドルとペッグ制を採用)となる中、マカオのインバウンド旅客のおよそ8割を占める中国本土からの旅客に消費パターンの変化や訪マカオ意欲に影響が及んでいるとの指摘もある。マカオのツーリズム業界は下半期に書き入れ時が集中していることから、今後どの程度までカジノ売上が挽回できるか、さらにカジノ運営6社の業績の推移にも注目したい。

マカオタワーから望むマカオ半島の町並み(資料)=2024年10月筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/

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