世界的に抜群の知名度と信頼性を誇るグルメガイドメディアとして知られる「ミシュランガイド」。実は、香港マカオ版も存在し、前月上旬にマカオの統合型リゾート(IR)グランドリスボアパレスで最新(2025年)の星獲得店リストの発表会が行われた。近年、発表会はマカオのIR運営企業がスポンサーとなり(今年はSJMリゾーツ)、マカオで開催されるのが恒例となっている。
最新のミシュランガイド香港マカオ版において、マカオで星を獲得した店の数は前年から3店増の19店となった。マカオならではの特徴として、19店すべてがIR内に入るレストランであることが挙げられる。
マカオのIR運営6事業者のうち、最も多くの星獲得店を輩出したのはメルコリゾーツ&エンターテインメントで、5店を占めトップとなった。同社がマカオで運営する3つのIR施設(シティ・オブ・ドリームズ、スタジオ・シティ、アルティラ)すべてに星獲得店が入る。
2位はギャラクシーエンターテインメントグループの4店、以下はSJMリゾーツとウィンマカオが各3店、サンズチャイナとMGMチャイナが各2店となった。カジノ売上シェア(サンズが首位)や現行カジノ経営コンセッションの入札評価(MGMが首位)とはまた違った並びになっているところも興味深い。
なお、SJMのグランドリスボアに入るコンテンポラリーフレンチの「ロブション・オ・ドーム」は香港マカオ版の創刊(2009年)以来、17年連続で3つ星評価を継続。同施設に入る広東料理(2つ星)のザ・エイトについても17年連続で星を獲得し続けている。SJMはマカオが本拠地の老舗カジノ事業者だが、コタイ地区への進出では6事業者の中で最も後発(2021年)だった。同社のコタイ地区のIR、グランドリスボアパレスは近年ミシュランガイド香港マカオ版の星獲得店リスト発表会の会場となっており、今回日本料理の瑞兆が念願の同IR初となる星(1つ星)を獲得し、面目躍如を果たした。
料理ジャンル別では、中国料理が11店(うち7店が広東料理)、日本料理が4店、フレンチが2店。やはり地元の広東料理が強いが、日本料理も大健闘といえるだろう。
マカオのミシュラン星獲得店の数は19店と紹介したが、参考までに香港は76店、東京に至っては世界最多の170店となっている。香港と東京の都市としての規模はほぼ同じ。一方、マカオは人口が約68万人、面積に至っては東京の山手線のおよそ半分に過ぎない。人口・面積あたりの星獲得店ランキングのようなものがあれば、マカオは世界最高だろう。もちろん、マカオは年間4000万人近いインバウンドを誇るアジア最大の観光都市のひとつでもあるが、香港・東京の旅客数はさらに上をいく。マカオはローカルの所得が高く、ミシュラン店を普段使いできる層が一定数いるのも強みだ。
マカオのIR運営事業者にとって最大の稼ぎ頭は言わずもがなのカジノ部門だ。一方で、各事業者とも料飲部門にかなり力を入れているのも事実。筆者がサンズチャイナ社の業績発表資料を参照したところ、同社の料飲部門は、売上に占める割合より支出に占める割合の方が大きかった。人が生きていく上で食事は必要不可欠なものだ。故に、外食産業は不況に強いとされている。マカオのIRにとっても、カジノ客を囲い込む、つまり外へ出さないためにも、食のラインナップの充実は重要テーマだ。ミシュランガイドのような世界規模でブランド力のあるアワードを獲得すれば、訴求力は当然高まる。マカオの各IR施設のビュッフェレストランが充実度を競い合っているのも、おそらく同様の理由と推測できる。
近年のマカオのIRの傾向として、各社ともゲストシェフを迎えるイベントを積極的に開催している。中でも、他の都市でミシュランの星を獲得したシェフを招聘することが多い印象だ。こういったイベントを頻繁に開催するのもブランディングの一環であり、またゲストを飽きさせない工夫といえるだろう。
マカオのカジノを含むツーリズム経済は、アフターコロナで回復が進んでいる。コロナ前からの回復率は、インバウンド旅客数でほぼ100%、カジノ売上については7割強。マカオ政府は、IR運営6事業者に対してノンゲーミング要素の拡充を求めており、その重要なポジションを占める料飲分野には今後ますます力を入れていくものとみられる。
マカオ市場においては、ミシュランガイドのほかにも、老舗のフォーブストラベルガイドも権威あるレストランアワードのひとつに数えられる。近年、中国発で新興の黒真珠(ブラックパール)レストランガイドアワードも存在感を強めているように感じる。

2025年のミシュランガイド香港マカオ版で前年から1つ星を上げて2つ星を獲得したIRウィンパレスの「シェフ・タムズ・シーズンズ」(広東料理)内観イメージ=2025年1月筆者撮影
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/