中国本土で大型連休となる旧正月の春節ゴールデンウィーク(GW)は、インバウンド旅客の大半(約7割)を中国本土旅客が占めるマカオにとって年に複数ある書き入れ時のひとつに数えられる。今年(2025年)は1月28日~2月4日の8日間だった。
マカオ政府旅遊局が公表したインバウンド旅客数資料(速報値)によれば、8日間の総インバウンド旅客数は前年同時期から3.5%減の130万9566人、単日平均にして16万3696人だったとのこと。同局は単日平均インバウンド旅客数を前年同時期から9%増の約18.5万人とする事前予測を示していたが、大きく下振れして前年割れという結果に。実は、当局予想が外れることは珍しく、現地では大きな衝撃を持って受け止められた。なお、日ごとのインバウンド旅客数動向を見ると、最初の3日間の落ち込みが大きく、4日目以降は前年を上回って推移。このうち4日目(1月31日)の単日インバウンド旅客数は21.9万人超で、史上2番目の多さだった。旅客ソース別にみると、中国本土からの旅客が全体の76.4%を占める100万208人で、前年同時期から3.2%減に。
目下、マカオのカジノ売上はマスがメインとなっており、インバウンド旅客数がカジノ売上に及ぼす影響は大きいとされている。よって、春節GWのインバウンド旅客数が前年割れしたことで、カジノ売上の動向に大きな注目が集まっていた。
マカオでは、当月のカジノ売上統計が翌月1日、インバウンド旅客数統計が翌月20日頃に公表される。記事執筆時点で2月のインバウンド旅客数統計が未公表だが、カジノ売上については、1月分、2月分が公表済み。具体的には、1月が前年比5.6%減の182.54億パタカ(約3415億円)、2月が6.8%増の197.44億パタカ(約3694億円)、1~2月累計が0.5%増の379.98億パタカ(約7109億円)という結果に。1月のマイナスを2月に取り返したことになる。春節GWのインバウンド旅客数が前年割れだったにも関わらず、なぜ2月が好調だったのか、気になるところだろう。
2月のカジノ売上が公表されたのは土曜日に当たる3月1日で、週明けの3日に複数の投資銀行が今年2月のレビュー及び3月の見通しに関するレポートを発出した。このうち、CICCのレポートを参照すると、2月のカジノ売上が好調だった要因として、春節ホリデー後のロングテール需要が拡大したこと、プレミアムマスの需要が持続したこと、改装を終えたホテル客室が多く市場に投入されたことを挙げている。中国でも、かつてのような一極集中ではなく、休暇の分散化が進んでいると言われており、1月のカジノ売上が振るわなかったことを考慮すれば、今年は後倒し傾向だったと想像できる。カジノ売上に影響を及ぼす、つまりマスの中でもプレミアムマス層(富裕層)属性の旅客は、ある程度時間の調整がつきやすい経営者などが中心なのかもしれない。実際、春節GWを終えても、マカオの観光名所周辺や統合型リゾート(IR)はGW中と変わらないくらいの人出で賑わっていたように感じる。
なお、1~2月累計カジノ売上はかろうじて前年比プラスとなったが、マカオの今年度財政予算における年間カジノ売上目標は前年から11%引き上げの2400億パタカ(約4兆4900億円)、月平均200億パタカ(約3742億円)で、1、2月とも未達となっている。これについて、JPモルガンはレポートの中で、今年は春節GW期間中のカジノ売上が振るわなかったが、2月全体としてみれば好調だったとした上、3月の予測については前年並み、下半期以降に伸びが加速する見通しを示した。今後、マカオのカジノ売上をみる場合、前年比はもちろんのこと、目標値との比較にも注目していただきたい。
最後に、春節GWにおけるインバウンド旅客数について、興味深いデータをご紹介したい。マカオにとって第一、第二の旅客ソースである中国本土(-3.2%)、香港(-8.9%)はいずれもマイナスだったもの、中国本土・香港・台湾を除いた国際旅客に限ると10.2%増だったという。マカオ政府はアフターコロナがスタートして以降、旅客ソース市場の多元化を積極的に推進しており、その一環として、国際旅客専用カジノエリアからのカジノ売上に対する税率を5%優遇するなどの措置を講じ、カジノ運営会社の国際旅客誘致を後押ししている。日本も重点市場の一つに挙げられており、今後マカオの官・民による日本に対するアプローチが増えていくものと予想される。

春節デコレーションで彩られたマカオの観光名所「セナド広場」の様子=2025年1月筆者撮影
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/