このほど、マカオのアフターコロナ2年目となる昨年(2024年)のカジノ市場関連データが出揃った。
統計資料によれば、昨年通期のカジノ売上(粗収益、Gross Gaming Revenue=GGR)は前年比23.9%増の2267.82億パタカ(約4兆3730億円)に上った。昨年のマカオの財政予算上のカジノ売上目標は前年の1300億パタカ(約2兆5070億円)から2160億パタカ(約4兆1650億円)、月額にして180億パタカ(約3470億円)へ引き上げられたが、単月で予算目標を下回ったのは閑散期にあたる6月と9月の2ヶ月のみで、通期の達成率は105.0%に達した。ただし、コロナ前2019年と比較した回復率は77.5%にとどまった。
カジノ売上の内訳については、VIPルームによるカジノ売上を反映するVIPバカラ売上は前年比21.2%増の547.64億パタカ(約1兆560億円)となったが、全体に占める割合は0.6ポイント縮小の24.1%に。マス(平場)による売上は1720.18億パタカ(約3兆3160億円)で、コロナ前2019年を9.4%上回った。カジノ売上の回復を牽引しているのはマスであることは一目瞭然だ。
VIPルームによるカジノ売上が全体の5割を切ったのは2019年のこと。カジノ売上に占めるVIPルームの割合の推移は2019年46.2%→2020年43.5%→2021年32.8%→2022年24.1%→2023年24.7%→2024年24.1%となっており、マスシフトが急速に進んでいる状況だ。ハイローラーと呼ばれる大口ギャンブラーへの依存度が低下、マス=ライト層の比重が高まったことによって、インバウンド旅客数そのものがカジノ売上に与える影響も以前より大きくなっているとされる。
昨年通期のインバウンド旅客数は前年比23.8%増の延べ約3493万人で、2019年の約88.6%まで回復。前年もインバウンド旅客数の回復率(71.6%)がカジノ売上のそれ(62.6%)を上回っていた。両指標の間にギャップが生じている要因として、マカオのツーリズム市場におけるノンゲーミング要素の拡充に伴い、カジノを目的としない旅客の割合が増えていることなどがあるとみられる。
マカオ政府旅遊局は年初に会見において、今年(2025年)のインバウンド旅客数が2019年並みの3800万~3900万人に達するとの予測を示した。インバウンド旅客数の回復が一層進むとする予測の背景として、中国本土からの「自由行(IVS)」と呼ばれる個人観光旅行スキームの対象エリア拡大、マカオと隣接する珠海市居民が週1回マカオ渡航を可能とする新政策など、昨年から今年にかけて相次いで講じられた中国中央による多数の新たなマカオ支援措置の存在が挙げられる。要は、パイの拡大だ。
マカオ政府は、アフターコロナでカジノ売上の回復傾向が続く状況を受け、今年度財政予算におけるカジノ売上目標を前年実績から5.8%増の2400億パタカ(約4兆6270億円)、月平均200億パタカ(約3860億円)に引き上げた。2019年の82.1%に相当する。インバウンド旅客数の回復ペースが見込み通り進めば、上振れの可能性も十分にあるだろう。
今後の注目点としては、カジノ売上のコロナ前水準への復帰の有無だろう。実は、昨年のカジノ売上目標として設定された数値は、財政収支の均衡が根拠だった(カジノ税収が歳入の大きなウエイトを占める)。すでにこれをクリアしている状況のため、コロナ前水準がベンチマークではあるものの、無理に数字を追う必要には迫られていないのが現状。今年のカジノ売上目標が保守的な数字なのも、おそらくそのためだろう。参考までに、マカオのカジノ売上のピークは2013年の3607.49億パタカ(6兆9560億円)で、10年以上も前の昔話だ。右肩上がりがずっと続いていたわけではない。
昨年のその他カジノ市場関連データもご紹介しておきたい。昨年末時点のマカオの総ゲーミング(カジノ)テーブル台数は6000台、スロットマシン台数は1万2000台。いずれも2023年第1四半期から変動なし。同年1月1日施行の改正カジノ法に伴い、テーブル・マシンとも台数キャップ(上限)が設定されたことと関係しており、上述の台数はその上限値と一致している。改正カジノ法施行直前でコロナ禍の真っ只中にあった2022年12月末(テーブル5605台、マシン1万775台)より多いが、コロナ前2019年12月末(テーブル6739台、マシン1万7009台)には及ばないという状況。昨年末時点のマカオのカジノ施設数は30軒で、2022年第1四半期から変動なし、2021年末の42軒からは大幅減。減少の理由は、コロナ禍による経営難や法改正などによって、カジノライセンス保有社から委託のような形態で運営がなされている衛星(サテライト)カジノの撤退が相次いだことによる。改正カジノ法で衛星カジノが現行形式で運営できる過渡期が今年いっぱいと規定されていることから(詳細は2024年12月の本稿参照)、さらなる撤退が出現する可能性も指摘されている。
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インバウンド旅客で賑わうグランドリスボア前=2024年12月筆者撮影
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/