4号機の爆裂問題により規制強化された5号機は、当初は純Aタイプ「アイムジャグラーEX」の独壇場となり市場が低迷していた中で、チェリーパンク回避を採用したサミー製「ボンバーマンビクトリー」や「スパイダーマン2」の登場によるART機ブーム、さらには10枚役の「ベル」と別の組み合わせによる小役を多数用意し同時に複数フラグを立て、その組み合わせ数の多いものを優先して引き込む仕組みを利用して実質上の「押し順」を再現したイレブン製「押忍!!空手部」の登場で、ART機が一気に市場の中心となっていく流れについては前回、述べた。ここから「5号機AT機」が復活するキーとなったエレコ製「エージェントクライシス」とKPE製「激闘!西遊記」を考察しながら、2回にわたって当時の進化を振り返ってみたい。
1. ART機の純増枚数の基本的な仕組み
5号機当初、ボーナスのストックとATが事実上禁止されたことを踏まえて、出玉の固まりを見せるために採用される機会が多くなっていたのがARTだ。これは、単純に通常時の「ハズレ」部分を、ある条件下では「リプレイ」に置き換えることで、通常時は減るコインを「増える」状態にする、というもの。規則にも明記されているため、当初から取り組みやすかった。単純にこの仕組みを実現するには、当時の規則ではシミュレーション試験(成立したフラグを全て揃えたと仮定した試験)での「長時間出玉(17,500G)で120%未満」「短時間出玉(400G)で300%未満」をクリアする必要があった。従って、範囲内に収めるには下図のような仕組みが基本的なものとなっていた。
リプレイ確率は規則上、最低値で1/7.3にする必要がある。仮にリプレイ確率を1/7、ベルを押し順が正解した場合のみ揃う7枚役とした場合、約3/7の確率でベルフラグを成立させると上記の図のようになる。全てのベルが揃ったと仮定したシミュレーション試験では、これで出玉率が116.7%となり、長時間の120%未満をクリアできる。もちろん実際の通常遊技ではベルの押し順が不正解になることが多いので、通常時はコインが減ることになる。
そしてARTに突入した場合は、この状態から「ハズレ」が「リプレイ」に置き換わり、さらにはベルの押し順をナビしてくれるため、全て7枚の払い出しを得られることになる。その状態でも出玉率は233.3%なので、これで短時間の300%未満をクリアできる。このケースでは、ARTの純増枚数は約1.7枚だ。
このように基本的な枠組みの中でART機を考えた場合、限界値までチャレンジしたとしても、ART中の純増枚数は1.9~2.0枚程度にしかならない。こうした理由により、5号機は「ART純増枚数1Gあたり約2.0枚」の時代が長らく続いていた。
2. 純増2.0枚を超えるアイデアの模索
この純増枚数約2.0枚の壁を打ち破る画期的なアイデアが搭載されていたのが、2011年10月に発売されたエレコ製「エージェントクライシス」であり、純増約3.0枚を謳っていた。では、どのような仕組みだったのか。
この機種には、5.96分の1で抽選されるMBが搭載されていた。MBは、2枚入れで消化し、44枚を超える払い出しで終了するが、毎回2枚役が成立するため実際には22Gで終わる。そしてこの22G間は「2枚IN→2枚OUT」を繰り返すため、増えも減りもしない。いわゆる「ゼロボ」と呼ばれるものだ。
実はこのボーナス搭載が肝となり、高純増を実現することに成功した。シミュレーション試験は、成立したフラグは全て揃える条件で行う。従ってこのMBも、5.96分の1で成立する毎に、即揃えて22Gを消化する手順となる。すると、どうなるか。シミュレーション試験上では、全プレイのうち通常時が20%程度にとどまり、MB中が80%近くになる。MB中は出玉率が100%なので、通常時の出玉率を160%付近まで高めても、全ゲームのトータルで120%未満を実現できることになる。つまり、試験中の大半を出玉率100%のMB中で消化させることにより、通常時で出玉率を限界値の120%から160%までアップすることを可能にしたのだ。
しかし実際のホールでは、この機種はボーナスを目押しでなるべく入賞させずに遊技する。すると、遊技の大半は通常時になる。こうした仕組みにより、ART突入後の純増3.0枚を実現した。では、このボーナス確率をさらに甘く、または上限枚数を増やしてゲーム数をさらに長くするなどして、ボーナス中の滞在期間、すなわち出玉率100%区間を増やせば、さらに通常時の出玉率を上げて純増枚数を4枚、5枚と増やせるのか。この点に関しては「役物比率」という試験項目が影響してくる。試験中の全払い出しのうち、ボーナスによって払い出されたコインがCT非搭載機なら60%未満、CT搭載機なら70%未満という規定だ。従って、これ以上ボーナスの確率を甘くしたり、ボーナスゲーム数を長くしたりするとこの「役物比率」がオーバーしてしまい、不適合となってしまう。結果として、この方法であれば純増3.0枚、というのが限界に近い値となっていた。
3. 純増3.0枚タイプの進化
エレコ製「エージェントクライシス」の発売以降、各社がこの方式のさらなる進化に取り組み始めた。「エージェントクライシス」の弱点は、大きく3つ。1つは「押し順ナビではなく目押しART」だった点。この点に関しては、ART消化の中身を押し順小役にすればいいだけで、比較的容易に対応可能だった。2つめは「通常時にボーナス図柄が揃わないよう目押ししなければならない」点だ。小役の優先引き込みはOKになったものの、純ハズレの時は、どうしてもボーナス図柄を外す目押しが必要になる。そして3つめは「ART突入時に、増えも減りもしないボーナスを消化」しなければならない点だ。時間の無駄ではあるが、リプレイ確率をアップさせるにはボーナスを入賞させて消化する以外に方法がない。
そこで各社は、ボーナス図柄が揃わないために「純ハズレをなくす」方法を検討した。ヒントとなるのは、2009年2月に発売されているネット製「ドラキュラ」だ。この機種は「ネオストック機」と呼ばれる機能を搭載しており、ボーナスは搭載しているものの、成立ゲームで揃えられないと以降「純ハズレ」がほとんどないため揃えることができない区間が続く、という仕組みだ。そして純ハズレをなくすために「1枚役orリプレイ」のフラグを毎ゲームのように立てていた。
この仕組みを高純増のART機に利用して、純ハズレをなくしボーナスを揃えさせないという考え方だ。このためには、通常時は「リプレイ」と「1枚orベル(または取りこぼしての0枚)」で埋め尽くし、純ハズレを作らない必要がある。従って通常時からどうしてもリプレイ確率が高めとなる。しかし逆にいえば、通常時から純ハズレがほとんどないため、ART突入時にもリプレイ確率をアップさせる必要性がなくなるので、ART突入時もボーナスを揃えさせる必要がない。つまりリプレイ確率の変動なしでナビだけが入るので「ART機」ではなく「AT機」といえるものだ。こうして登場したのが2012年4月に発売されたオリンピア製「ねぇ~ねぇ~島娘」と、直後に導入された山佐製「パチスロ鉄拳デビルVer.」だ。これらの機種は、ラムクリ後の最初のボーナスフラグ成立時のみは単独成立でボーナスが揃うが、この時に目押しでボーナスを外しさえすれば、以降は基本的にボーナス図柄が入賞しない。そしてこれらの機種が登場して以降、市場は高純増タイプへ急速に移っていく。
(以下、次号)
■プロフィール
鈴木 政博
≪遊技産業研究所代表取締役・遊技日本発行人≫
立命館大学産業社会学部卒業後、ホール経営企業管理部、遊技コンサル会社を経て2002年に㈱遊技産業研究所に入社。遊技機の開発アドバイザー、新機種情報収集及び分析を中心に活動し、TV出演・雑誌掲載など多数。2021年7月より業界誌「遊技日本」発行人を兼務。