【特別寄稿】パチンコ産業の歴史㉘ 2004年規制改正以降のパチンコ市場③(WEB版)/鈴木政博

2012年4月1日より、2004年の新規則以降では初といえる「パチンコの緩和内規」が施行された。詳細はご存じのとおりだが、まず1つめの変更点は以下の部分だ。

日工組内規の改正・追加部分(抜粋)

射幸性の制限について
1.射幸性の制限
(1)役物連続作動装置を有する遊技機において、総獲得遊技球数の期待値は9,600個以下とすること。
この場合における期待値の算出は、遊技客からみて有利な状態の開始となる条件装置の作動から有利な状態が終了するまでの間の、大入賞口への入賞によるもので計算する。
なお、有利な状態の開始となる条件装置の作動による獲得遊技球数は、設計上の最大値を用いることとする。
ただし、条件装置の作動に係る特定の領域を有しない遊技機において、総獲得遊技球数の期待値を8,600個以下とした場合の普通電動役物に係る入賞口(注1)の最低賞球数については、下記(4)は適用しないこととする。

(注1)普通電動役物に係る入賞口は、特別図柄表示装置が作動する機能を有し、主に変動時間短縮機能作動時に作動するもの。

~中略~

(4)最低賞球数を3個までとすること。

~後略~

簡単に解説すると、「電チューの最低賞球の緩和」だ。確変と時短を合わせた総獲得遊技球数はすでに9,600個以下と規定されていたが、8,600個以下の遊技機に関して、電チュー賞球については(4)は適用しなくてもよい、となった。(4)は「最低賞球数を3個までとすること」となっているので、つまり「獲得球数が8,600個以下なら電チュー賞球を2個や1個にしてもよい」ということになる。

そしてこの「電チュー1個、2個賞球の意味」についてだが、大きく2つある。1つめは「確変中・時短中の時間短縮」だ。確変中、時短中はベース100を超えることはできない。発射は一分間に100発であるから払い出しも100発が限界値となる。つまり電チュー賞球が3個であれば、一分間に電チューで消化できるスタートは理論上33回が上限値となる。しかし賞球2個であればスタート50回、賞球1個なら100回のスタートを理論上では一分間に回せることになる。つまり結果として「高速消化」が可能になるわけだ。

特に確変中はST機などを除けば、ファンにとっては「次に大当たりが来るのが確定しているのに時間だけが消費されている」というムダな時間帯であるし、ホールにとっても「売上の上がらない時間帯」であるといえる。つまり確変中、時短中を短時間で消化させることで通常時ゲームの時間が増え、そして大当たり回数や売上もUPするという効果が考えられる。ファンにとってもホールにとってもメリットのある緩和だといえるだろう。

もう1つは「確変中確率を悪くすることによるスペック開発の広がり」だ。規則にはMNRSという考え方があり、出玉と確変率と確率には密接なバランスが求められる。これが、確変中確率を悪くすることにより、様々なスペックの可能性が出てくるのだ。

例えば、今まででもよくある機種の例として「確率299分の1、確変65%という機種を考えてみる。この機種についていえば、例えば電チューの振り分けを「すべて16R、10カウント、賞球15個」という夢のあるスペックにするにはMNRS的に厳しかった。なぜなら、これを実現するには確変中確率を139分の1程度まで悪くする必要があるからだ。今までの内規であれば、確変中確率が139分の1というのは受け入れられるスペックではない。

しかし賞球を1個にすれば、一分間に100回近くスタートを回せるため、139分の1なら平均で2分間を切るスピードで消化させることができる。もちろん上限の8,600個を守る工夫は検討しなければならないが、この点において、今後はスペックに広がりが出てくると予想される。

そして2つめの変更点は以下の部分だ。

日工組内規の改正・追加部分(抜粋)

遊技機の仕様について
1.条件装置の作動に係る特定の領域を有し、かつ、変動時間短縮機能を備えた遊技機
(1)出玉性能
獲得遊技球数の期待値は、6,400個以下とすること。
この場合における期待値の算出は、遊技客からみて有利な状態の開始となる条件装置の作動から有利な状態が終了するまでの間の、大入賞口への入賞によるもので計算する。
なお、有利な状態の開始となる条件装置の作動による獲得遊技球数は、設計上の最大値を用いることとする。

~後略~

これは一種二種混合タイプの規定だ。いわゆる「牙狼内規」で厳しく定められていた部分のうち「アタッカー賞球は10個以下」と「時短中の期待出玉を平均4,800個になるセット機、または継続率を66%以下にする」という2点について、これを撤廃。代わりに「総獲得遊技球数の期待値は6,400個以下とする」という基準を作ったものだ。

以前の基準でも「初当たり1,600個+時短中4,800個」で総数は6,400個であるから、射幸性は全く同じだ。ただし開発の自由度が上がった。特に市場では不評になりやすい「リミッター機」を除けば、今までは仮に6,400個以内の機種でも継続率を66%以下にしなければならなかったものが、総数さえクリアすれば継続率は自由に設定できるようになった点が大きい。T1Yさえ落とせば、継続率82%の初代牙狼も開発可能となる。

また補足として、演出用ROMの記憶容量の上限も64GBと規定された。これは際限なく演出ボリュームを競い続けて、やみくもに機械代金が高騰するのを防ぐための基準だと思われる。2012年8月に導入された京楽産業.「CRぱちんこAKB48」は60曲搭載というボリュームで上限の64GBで登場した。ここからパチンコは、緩和された内規でのスペック面、液晶演出のボリューム面も合わせ、さらなる広がりを見せていくこととなった。

京楽産業.製「CRぱちんこAKB48」

京楽産業.製「CRぱちんこAKB48」
©AKS ©KYORAKU

(以下、次号)

■プロフィール
鈴木 政博
≪株式会社 遊技産業研究所 代表取締役≫立命館大学卒業後、ホール経営企業の管理部、コンサル会社へ経て2002年㈱遊技産業研究所に入社。遊技機の新機種情報収集及び分析、遊技機の開発コンサルの他、TV出演・雑誌連載など多数。

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