【コラム】マカオカジノ運営6社の利益合計が4年ぶりプラスに(WEB版)/勝部悠人

マカオでは、新型コロナウイルス感染症防疫対策の一環として2020年1月下旬から2022年12月下旬までの丸3年にもわたって厳格な水際措置が講じられ、インバウンド旅客に対する依存度の高いカジノ業界の業績にも大きな影響が及んだ。2023年1月初旬に水際措置の全面的な緩和がようやく実現し、以降は社会・経済の正常化が一気に進んだ。

マカオにとってアフターコロナ初年となった昨年(2023年)通期のカジノ売上(粗収益、Gross Gaming Revenue=GGR)は前年から333.8%増、2019年の62.6%に相当する1830.59億パタカ(日本円換算:約3.5兆億円)まで急回復。インバウンド市場の復活によるところが大きい。インバウンド旅客数についてはカジノ売上を上回る回復で、前年から394.9%増の2821.3万人、2019年と比較した回復率は71.6%に達した。インバウンド旅客数及びGGR回復の勢いは今年に入って以降も持続している。

目下、マカオにおけるカジノ施設数は30軒で(昨年末時点と変わらず)、政府とコンセッション(経営権契約)を結ぶ民間事業者6社が運営している。

去る4月24日付のマカオ特別行政区政府公報(官報に相当)に6社のカジノ経営コンセッション事業者=SJMリゾーツ社、ウィンリゾーツマカオ社、ヴェネチアンマカオマカオ社(サンズチャイナ)、ギャラクシーカジノ社(ギャラクシーエンターテインメントグループ)、MGMグランドパラダイス社(MGMチャイナホールディングス)、メルコリゾーツマカオ社の昨年の業績が揃って掲載された。

2022年は6社すべてが赤字だったが、各社の報告によれば、2023年は5社が黒字転換を果たしたとのこと。赤字となった1社についても、赤字幅は60%縮小したという。6社の利益合計は183.6億パタカ(約3590億円)で、黒字の5社に限ると199.5億パタカ(約3900億円)となった。個別の状況は下記の通り。

・SJMリゾーツ社:-15.9億パタカ(-約310億円)※赤字
・ウィンリゾーツマカオ社:27.3億パタカ(約530億円)
・ヴェネチアンマカオマカオ社:61.4億パタカ(約1200億円)
・ギャラクシーカジノ社:69.8億パタカ(約1370億円)
・MGMグランドパラダイス社:36.8億パタカ(約720億円)
・メルコリゾーツマカオ社:4.2億パタカ(約82億円)

なお、コロナ禍の3年間の6社合計の赤字額の推移は、2020年が330億パタカ(約6450億円)、2021年が191億パタカ(約3740億円)、2022年が369億パタカ(約7220億円)で、3年間累計の赤字は890億パタカ(約1兆7410億円)に上った。6社の利益合計がプラスとなるのは実に4年ぶりのこと。依然として1社(SJMリゾーツ)が赤字となっているため、6社すべてが揃っての完全黒字化は来年以降に持ち越しとなった。

SJMリゾーツ社のみ赤字だった要因として、コロナ禍の真っ只中にある2021年に同社としてコタイ地区で初めての旗艦統合型リゾート(IR)施設となるグランドリスボアパレスをオープンしたことが大きいとみられる。同社はかつてのモノポリー企業で、長くマカオ半島を本拠地としてきた経緯があり、コタイ地区への進出は6社の中で最後だった。一方、他の5社についてはコロナ禍で守勢に入り、ある程度体力を温存できたといえる。

参考までに、2019年の6社の利益合計は413億マカオパタカ(約8080億円)にも上っており、単純計算でコロナ禍3年間の赤字合計を2年余りで帳消しにできる数字だ。実はマカオのカジノ経営コンセッションは2023年から最長10年間の新コンセッションがスタートしている。顔ぶれは前コンセッションと変わらず、いずれも赤字を記録したコロナ禍の2022年にかけて再入札に臨んだが、莫大な利益を期待できる事業であり、当然といえるだろう。2023年業績発表での各社の談話などを総合すると、アフターコロナの到来とインバウンド旅客の戻りは想定より早かったとみているようだ。新コンセッションのスタート時期がアフターコロナの到来と重なったのはおそらく偶然だが、コンセッション事業者にとっては、非常にラッキーだったことになる。アフターコロナの急回復をみれば、少なくともマカオのランドカジノ事業は決して“オワコン”ではないことがわかる。向こう10年間で、コロナ禍で生じた赤字分を大きく上回る利益を上げると期待されている。

今年(2024年)の状況については、インバウンド旅客数が前年同時期から79.4%増の887.6万人、GGRが65.5%増の573.26億パタカ(約1兆1210億円)で、2019年同時期からの回復率はそれぞれ85.7%、75.3%と順調な回復ぶりを維持している。年内どの程度まで回復が進むか、また今後2019年レベルを超えることがあるのかどうかにも注目したい。

統合型リゾート施設が集積するマカオ・コタイ地区の街並み。左中央付近の建物がグランドリスボアパレス=筆者撮影

統合型リゾート施設が集積するマカオ・コタイ地区の街並み。左中央付近の建物がグランドリスボアパレス=筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/

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