先月号で全日遊連の1月の全国理事会での警察庁課長講話がどのような位置づけのものか、触れた。ちょうど先月号の稿を書いたのが理事会の数日前のこと。入稿直後に理事会開催となり、例年通り課長講話もあったことから、この点本稿で取り上げようと思う。
1月19日、全日遊連の全国理事会が開催された。例年通り、警察庁から松下和彦保安課長がやってきて講話をしている。
課長講話の内容は昨年11月の余暇進秋季セミナーの課長補佐講話と比較してもかなりシンプルになった。課長補佐講話が5項目について言及しているのに対して課長講話は3項目である。
3項目は広告宣伝、依存対策、不正改造+賞品関係の3点の順に触れられている。ただし、いわゆるBモノや遠隔操作が業界からおおむね消えていったように見えている現在(この点は不正改造が巧妙になって発覚していないという可能性もないことはないが)、不正改造という言葉は基本的には釘調整のことを指すと解すれば、3点目については正直業界は特に何かしら対策する必要はないと言っておきたい。釘調整はスロ専以外の店にとっては「ただの日常業務」であり、かつ、「やってないことになっているため、釘調整の現場は外部にバレないようにする必要がある」だけだ。釘調整について「調整幅が大きすぎてやり過ぎ」という状況も摘発事例としては珍しくないが、法令の枠組みとしてはやっていい範囲やってはいけない範囲というのはなく、杓子定規に言えば「釘調整は違法」なのだから、内容よりもバレないようにするべき、としか言いようがない。また、賞品関係というのは、昨年のインボイススタートによって買い場の第三者性が弱いところも改善されているはずだと考えれば、実はこれも業界挙げての話にはなりづらい。
ということは実質的には課長講話は「広告宣伝と依存対策しか言及していないようなもの」ということが言えるわけだ。
その上で各自、手元にあるだろう課長講話のファイルを再読することをオススメしたい。
まず優先順位だが、初めの項目はやはり広告宣伝となる。広告宣伝は一昨年末に警察庁が各警察本部に通達を出し、ちょうど一年ほど前に業界のガイドラインが制定され、以降、ホール4団体が不定期だがさまざまな文書発出によってガイドラインの適切な運用を図ろうとしてきた。本誌が発行される頃にはガイドライン改訂が済んでいるかもしれないが、改訂目前というのは昨年10月頃から業界の中では既定路線である。このガイドラインの運用を適切にやっていこう、ちゃんと守ろうということを言うのは課長でなくとも普通のこと。
課長講話における言及で特徴的だと私が感じたのは「ダメな広告宣伝を晒し系に絞って言及している」という点だ。第三者を偽装する晒し系の広告宣伝は、単純に風営法第16条に違反する内容かどうか以前に、私に言わせれば詐欺と同様のもの。まだ私が業界に入る前の平成の初め頃、悪い先輩が「刑務所の中で最も差別されるのは、一連の被害者が弱者の凶悪犯と詐欺犯」と能書きを垂れてきたことがあることを思い出した。私は刑務所に入ったことがないので事実関係は知らないが、その悪い先輩曰く「ウソをついてカネを儲ける奴が犯罪者の中でも最も最低ランクの人間として扱われるからウソはつくな」という教訓らしい。その悪い先輩の言ったことの真偽は不明だし、たとえ本当であっても令和の今でもそのようなことなのかは知らないが「悪い奴の間でも最低の人間」と評されると、悪い先輩が言っていたのは事実である。その先輩もかなり悪い奴で主に傷害系、薬物系で懲役経験がある。そんな悪い奴が詐欺犯を「俺よりも悪い」と嘯いていた。私に言わせれば、晒し系は「店とは関係ないとウソをついて店からカネをもらっている」ということであるから、これは社会に対して詐欺だと思う。店や遊技客は第三者なんて微塵も思っていないからステークホルダー相手の詐欺ではないけれど。
話が逸れたが、課長講話でそのようなことを思い出した。
次に依存対策。依存対策は政府の重要政策の一つであり、ギャンブル等依存症対策基本法の規定によって、閣議決定されたギャンブル等依存症対策推進基本計画に基づいてさまざまな対策が実施されてきた。この基本計画は少なくとも3年に一度の見直しが基本法で義務付けられており、来年の4月から(つまり、再来年度から)新しい基本計画が実施されることになる。このため、来年度中(つまり来年3月末まで)に新しい基本計画を政府のギャンブル等依存症対策推進本部はとりまとめて閣議決定されることになる。この基本計画の見直しのためにも、全店に自己申告・家族申告PRGの導入を、というのが課長講話の内容だった。
現実問題、新紙幣への改刷もあって、全店に両PRG導入は不可能というのが私の想定だが、それでも導入促進は目指すべきものであるし促進されていくだろうとは思っている。
このように課長講話が2点だけ、しかも内容もかなり絞り込んだ言及となったということは近年珍しいと思う。例年、ダラダラとあれもこれもと言及してきたわけだが、今回はそれがない。逆説的だが「それだけ広告宣伝と依存対策はちゃんとやれ」ということなのだろうと思う。
全日遊連全国理事会のあとの業界の大きなイベントは21世紀会。1月30日の賀詞交歓会の直前に開催された21世紀会ではメインテーマは依存であり、リカバリーサポート・ネットワークの西村代表理事が基調講演を行っている。21世紀会の会合でも業界の依存対策について話合われているようであり、石川県への1,000万円の寄付はあれど、業界課題として話に出たのは依存対策ということになった。
これを私は「業界内の最優先課題は広告宣伝、業界として対外的に努めなければならない最優先事項は依存対策」というように理解している。
広告宣伝ガイドラインの改訂なり運用なりホール4団体側からの相談等の相手の責任者は警察庁の保安課長である。業界は常に保安課長と対峙しながら商売をしていることから、業界の最優先課題であるのも納得だ。だが、ギャンブル等依存症対策推進基本計画は閣議決定されるものであり、ギャンブル等依存症対策推進本部の本部長は内閣官房長官が担っている。つまり依存対策は「日本政府、それも要するに内閣そのもの」が対峙先だ。対外的に最優先されるのは依存対策というのも道理であろう。
保安課長が示した優先順位にそって、業界が指導通りに改善していくことができるかどうか、が警察庁的な視点での令和6年の今年の注目点ということになるだろう。
■プロフィール
POKKA吉田
本名/岡崎徹
大阪出身。
業界紙に5年在籍後、上京してスロバラ運営など。
2004年3月フリーへ。
各誌連載、講演、TV出演など。
お問い合わせ等は公式HP「POKKA吉田のピー・ドット・ジェイピー(www.y-pokka.jp)」か本誌編集部まで。