創刊60周年記念にあたり、業界の歴史を振り返る意味において「パチンコ産業の歴史シリーズ」を再掲載しています。※この原稿は2012年3月号に掲載していた「パチンコ産業の歴史㉑」を一部加筆・修正したものです。
1. なぜAT機が認可されるに至ったか?
前号にて2001年1月にサミー製「獣王」が発表され、以降各社から「AT機」が続々と発売、パチスロはストック機も合わせ爆裂機時代を迎えるに至る流れを書いた。ではなぜ、これら爆裂機、とりわけAT機は認可されるに至ったのだろうか?
パチスロ機は「遊技機」であり、カジノのギャンブルマシンとは違う。「遊技」であるからには、「遊」であるところの「適度な射幸性」と、「技」であるところの「適度な技術介入の要素」が両立して含まれる必要がある、というのが一定の見解である。従って、風適法や国家公安委員会規則に表記されている「著しく射幸心をそそるおそれのある」ものとは、「技術を要せず、偶然の要素にて、労せず思いがけない利益を期待させるもの」と解釈するのが妥当であろう。
1999年以降、パチスロ機に「サブ基板搭載」が容認された。サブ基板は元来「出玉性能に関連しない、液晶表示や音、ランプなどの演出面を作動させるためのもの」として搭載を許可されたものだが、サブ基板からメイン基板への信号の伝達は禁止されているものの、逆にメイン基板からサブ基板への「フラグの成立信号」の伝達は許可されていた。そこで、このサブ基板により小役をナビする機能が発展し「AT」が生まれた。
例えば「獣王」においては、小役を「12択」にしている。左リールで3分の1、中リール、右リールで2分の1でしか引き込まないようにリール配列を施したうえで、その組合せは全て15枚の払い出し小役に設定。こうすれば、内部的にはリプレイ成立時、ボーナス成立時などを除いた「ほぼ毎回」いずれかの組合せの15枚役が内部成立している状況を生み出せる。そして毎回のように成立している15枚役は、通常時はどの組合せが成立しているかわからないため12回のうち11回は、自然と取りこぼしてしまう状態を作り出している。逆を返せば、ATが発動すれば、指示どおりに目押しするだけで「ほぼ毎回」15枚役が入賞する、ということである。
そしてこの「AT」が特殊なのは「ボーナス(役物)」ではない点であった。内部的には、小役確率が変化しているわけでもなく、ボーナス中のように通常時と違う処理がなされているわけでもない。つまり抽選している小役も、その期待出玉率もどの状態でも同じだ。通常時とAT中が違うのは「ランプが光っている」「成立小役をドットに表示している」にすぎない。つまりAT中は「メイン基板は通常時と全く変化がない」状態で、「サブ基板のみで作動している」という点が、機械設計の自由度を広げた。ATの抽選確率をどのように設定しようが、ATが何十連チャンしようがそれは「ボーナス」ではなく「メイン基板上の変化は何もない」状態のため、当時の保通協試験時では対象外となる。つまり、どんな「爆裂機」でも開発可能な土壌が出来上がっていたのだ。
保通協での型式試験では「出玉率の上限120%」という適合項目があったが、当時の検査では機械打ち、つまり自動的にリールを回して自動的に停止させているに過ぎなかった。従って試験時にATが発動しても、目押しをしないのであればベースは通常時と全く変わらず、出玉率検査も適合範囲で収まってしまう。「獣王」はいわゆる不正機ではなく、適合すべくして適合した機械である。しかし実際のホールでの稼働時は、客は当然指示に従って目押しを行うため、AT中出玉率330%、設定6で約140%という脅威のスペックに化けてしまった。
この事例をどう捉えるかは判断の難しいところではある。AT中の目押しは「技術介入」である点は明らかであるし、一生懸命に技術を磨いて目押しをする限りは「技術を要せず、偶然の要素にて、労せず思いがけない利益を期待させるもの」とは言えないだろう。ただし、客観的に見れば「保通協試験時の出玉性能」と「ホール稼働時の出玉性能」の乖離の大きさは明らかで、これが以後、パチスロ業界に大きな影を落とすことになる。
2. 押し順ナビ機能の誕生と普及
そして、この問題をさらに大きくしたのは「押し順ナビ」と呼ばれる機能が出てきたことだ。2000年11月にエレコ製「イーカップ」が「初の押し順ナビ搭載機」として登場し、以降この「押し順ナビ機」が続々と発売される。当初「獣王」では「目押しポイント」を指示していたが、後半になると「サラリーマン金太郎」「ミリオンゴッド」に代表される多くのAT機は「押し順」を指示していた。これは、小役を分割しているのは「獣王」と同じだが、「左・中・右」「中・右・左」など正解の押し順が6通りあり、その押し順通りにリールを止めなければ制御上で取りこぼさせる、というものだ(実際にはサラリーマン金太郎は5択と6択の複合)。つまり、通常時は正解の押し順がわからないため6回に5回は取りこぼし、AT中は指示どおりの押し順で止めるだけで通常の6倍、小役やシングルボーナスが入賞する仕組みである。この「押し順指示」が「獣王」などの「目押し指示」よりも問題視された原因は2点あると考えられる。一つは、AT中に押し順指示どおり「右・中・左」などとリールを止めることが、果たして「技術介入」と呼べるのかどうか。目押しと違い、押し順指示の表示さえ理解すれば、「誰でもできる」点が非常に弱く感じられた。
二つ目は「保通協型式試験時の出玉性能」と「ホール稼働時の出玉性能」の乖離についてだ。押し順ナビ機の多くの機種は、小役の分割を均等に6分割していない。理由は「獣王」の12択に比べ、押し順は6通りしかないため最大6択にしかできないからだ。「ミリオンゴッド」を例に考えてみると、ゲーム性として、やはりAT中はなるべく毎回のように小役を成立させたい。しかし小役を15枚に設定し、均等に6分割してしまうと通常プレイで6ゲームに1回も15枚小役が入賞し、ベースが高くて使えない。では、どうするか。「ミリオンゴッド」では、押し順6択のうち「左・中・右」のみ小役が入賞する割合を極めて低く設定している。その上で、「左・中・右」以外の押し順で通常プレイを消化すると、ATが発動しない「ペナルティ」という仕組みを取った。その上で、保通協試験の申請時に「最も出玉率の高い押し順」として「右・中・左」という逆押しを指定、逆押しの試験にて適合を得た、という経緯がある。この機種は「右・中・左」の押し順で遊技すると、通常時ベースが95%近くまで跳ね上がる。反面、ATには全く突入しない。当然この打ち方だと出玉率試験には適合することになる。しかし実際のホール営業では、客は皆、唯一AT発動の可能性がある「左・中・右」という順押しでプレイする。このため順押しすると、史上最低と言われるベースの低さになった。これが「コイン単価8円」とも言われた、過去に例のない売上を誇る機械が適合した理由である。
この事例は、様々な問題を抱えていた。例えば、実際にホールで遊技者がプレイするであろう押し順とは明らかに違う「右・中・左」という押し順で申請していた点だ。保通協試験の申請時には「最も出玉率の高い押し順」として申請しているため、これが虚偽であるとはいえない。なぜなら、実際のホール営業データよりも「右・中・左」で打ち続ける方が平均の「出玉率」としては高くなるからだ。ただ、遊技者は、「なかなかコインが減らないが、絶対に増えない打ち方」を選択することはありえない。多少投資がかさんでも、大量のコインを獲得できる可能性のある順押しを選ぶ。そして、その順押しこそが「史上最低と言われるベースの低さ」となる打ち方であり、実際にはこの押し順では型式試験はなされていない。この「保通協試験時の出玉性能」と「ホール稼働時の出玉性能」が、実際には乖離するであろうことを前提として適合している点が、当時の問題としては大きかった。
そして2003年10月1日、ついに業界に激震が走る出来事が発生する。
(以下、次号)
■プロフィール
鈴木 政博
≪株式会社 遊技産業研究所 代表取締役≫立命館大学卒業後、ホール経営企業の管理部、コンサル会社へ経て2002年㈱遊技産業研究所に入社。遊技機の新機種情報収集及び分析、遊技機の開発コンサルの他、TV出演・雑誌連載など多数。