内外から大きな注目を集めていたマカオの次期カジノカジノライセンス(契約期間最長10年、最大6枠)の入札レースがこのほど決着をみた。
経緯を振り返ると、入札は9月14日に締め切られ、現行ライセンス事業者6社に新規参入1社を加えた計7社が入札書を提出し、同月16日の開札を経てすべて受理。以降はマカオ政府のカジノ経営コンセッション競争入札委員会による入札参加社との協議、諮問及び審査が進めてられてきた。そして11月26日、次期カジノライセンスの暫定発給先(内定)リストが行政長官令として発出されるに至った。内定したのは下記の6社(総合評価点順)で、いずれも現行ライセンス事業者。今回唯一新規参入に名乗りを挙げたGMM Limited(マレーシアを本拠とするゲンティングループ)は7位となり、選外に。
1=MGM Grand Paradise Limited
2=Galaxy Casino Company Limited
3=Venetian Macau Limited(サンズチャイナ)
4=Melco Resorts (Macau) Limited
5=Wynn Resorts (Macau) Limited
6=SJM Resorts, Limited
今後の流れとして、入札委と内定6社との間で具体的なコンセッション契約内容に関する協議が進められ、今年末までに契約締結、ライセンスの正式発給といった諸手続きを完了し、2023年1月1日から改正カジノ法及び新ライセンス下でのカジノ経営がスタートする見通し。
なお、現行ライセンスは本ライセンスの3社にサブライセンスの3社がぶら下がる特殊な形態(SJM>MGM、Wynn>Melco、Galaxy>Venetian)だが、次期ライセンスは6社がそれぞれ政府と直接契約を結ぶことになっている。総合評価の順位を見ると、MGMとMelcoが下剋上を果たしたと言えよう。かつてマカオのカジノライセンスを独占していたSTDMをルーツに持つ老舗のSJMが最下位に沈んだことに対して衝撃が走ったが、STDM創始者である「カジノ王」スタンレー・ホー氏が2020年に亡くなり、MGMとMelcoを率いるのがその娘(パンジー・ホー氏)、息子(ローレンス・ホー氏)というのも象徴的だ。SJMも娘(デイジー・ホー氏)が継承しており、依然としてホーファミリーが6枚のライセンスのうち半数を握る状況は全く変わらず、少なくとも今後10年間はプレゼンスを維持できることになる。
評価基準について、入札委は事前に(中国本土以外の)海外からの誘客計画、運営経験、マカオ経済にメリットをもたらすカジノ及びノンゲーミングプロジェクトへの投資計画、カジノ施設内における違法行為に対する監視・予防策、社会的責任の履行のほか、(再入札に向け改正を行った)ゲーミング法に規定された国家安全要件との符合を考慮することを公言。委員会主席でマカオ政府行政法務長官の張永春氏は11月26日の結果発表会見の中で、特に「ローカルスタッフの雇用の安定確保」、「海外旅客ソースの開拓」、「ノンゲーミング要素の発展」の3つを重視したことを明らかにした。ただし、具体的な総合評価点数は当事者のみに知らせる非公開が望ましく、順位を公表するにとどめるとした。内定した6社がコミットした投資額や計画の内容については、正式契約締結後に公表されるとみられる。このほか、次期ライセンス下ではゲーミングテーブルとゲーミングマシンの上限数がそれぞれ6千台、1.2万台に設定されるが、各種要素を考慮した上で適宜配分するとのこと。
現地の反応としては、現行6社の内定は下馬評通りで、歓迎ムードが広がっていたように感じた。長引くコロナ禍でマカオ経済は低迷を極めており、雇用市場へのダメージも深刻となっていたため、多くの雇用や取引先を抱える現行カジノ6社のポジションが安泰だったことで、胸を撫で下ろした人も多かったはずだ。平時であればマカオに新風を吹かせる新規参入者にもチャンスがあったように思えるが、今回のタイミングでは安定的な事業継続性が重視された面も否定できない。しかしながら、ゲンティンは存在感を見せつけ、またマカオのメンツを保つのに貢献したともみられており、次(=10年後の入札)を見据えた挨拶としては十分アピールできたはずだ。向こう10年間でマカオにおける実績をどれだけ積み上げられるか、またライセンス事業者のいずれかと連携するのかなども見どころ。今後、6社による新プロジェクト等が順次明らかになってくるほか、近日は中国本土で防疫措置の緩和を進める動きも出てきており、2023年マカオのカジノ業界は心機一転、大きな期待が持てる船出となりそうだ。
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/