マカオで度々話題となるのが、東アジア地域における新興カジノ国・地域との競合関係だ。このところはタイの動きに注目が集まっている。タイではカジノ合法化に関する議論が行われており、国内5ヶ所に統合型リゾート(IR)を誘致するといった噂話も聞こえてくる。今年3月、国際カジノ大手のラスベガスサンズ社会長兼CEOのロブ・ゴールドスタイン氏がラスベガスの日刊紙「ラスベガス・レビュージャーナル」とのインタビューの中で、シンガポールのマリーナベイサンズと同規模のIR開発に向けてアジアの“主要国”と交渉中であることを明らかにし、これがタイではないかとの憶測が駆け巡った。タイはアジア有数の観光立国として知られ、ビザ取得のハードルが低いことから中国人観光客にも人気のデスティネーションとなっている。少し前までは日本がアジアのラストフロンティアなどともてはやされたものが、ラスベガスサンズが早々に撤退を表明し、マカオ系のギャラクシーやメルコの姿もすでにないなど、現在地は読者の皆様もよくご存知の通りだ。
既存のライバルとして存在感が大きいのがシンガポールとフィリピンだろう。マカオのカジノ税率はマスとVIPが一律で約39%となっているが、フィリピンではVIPが25%、自国マスが17%、外国人マスが15%で、シンガポールは今年3月からVIPとマスでそれぞれ2段階(累進制)とし、VIPが8%と12%、マスが18%と22%に。いずれもマカオと比較して低く設定されている。
マカオの次期コンセッションのライセンス数は現行と同じ6(最大)となり、現行ライセンスを保有する6社は揃って応札に前向きな姿勢を示しているものの、高税率と監理強化、さらにはゼロコロナ政策下で売上の低迷が続く中、新規参入者が出現する可能性は低いとみられている。一方で、マカオの事業者の新興市場に対する興味はより切実な問題として以前よりも大きくなっているのではないだろうか。実質的にマカオでの活動が難しくなった仲介業者(ジャンケットプロモーター)についても、生き残りをかけてマカオ以外の東アジアに活路を見出すと予想される。マカオのノウハウはもとより、VIP客も流出すれば、結果的に競合を利することになるのかもしれない。
マカオの場合、コロナ禍が一段落さえすれば、インフラの充実度から一定レベルまでのカジノ売上の回復は計算できるが、現行のゼロコロナ政策をいつまで堅持するのか見通しが全く立っておらず、大手カジノ事業者といえども長期化による疲弊は避けられない。かつてないほどの厳しい状況に直面する中、マカオ政府がどう舵取りを進めるのか、興味深く見守りたい。
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/