今回のG2Eアジアのシンガポール転出について、マカオメディアも大きく報じていた。記事を読むと、カジノ売上の低迷が長期化する中、ハブ機能まで失ってしまうことで、カジノ都市としてのマカオのポジションが低下するのではないかとの危機感が見てとれた。コロナ前まではダントツで世界一を誇ったマカオのカジノ売上だが、近年はアジア域内における競争激化が進み、決して安泰ではないとされている。加えて、昨年末にはマカオのジャンケット系VIPルームの大量閉鎖といった大きなマーケットの変化もあった。マカオのカジノ業界は試練の時を迎えているといえよう。
なお、シンガポールで開催予定の「G2Eアジア2022」については、タイトルに「スペシャルエディション」の文言が入っており、将来的にマカオへ復帰する可能性にも含みを持たせたものではないかと想像できる。シンガポールの会場となるマリーナベイサンズは、マカオの開催時の会場だったヴェネチアンマカオと同系列(ラスベガスサンズグループ)の運営というところもマカオの立場としては希望が持てるだろう。
新型コロナの終息時期は見通せないが、シンガポール開催が定着するのか、それともマカオへ復帰するのか、G2Eアジアの来年以降の動向に注目したい。今回のシンガポール版が成功を収めれば、アジア2都市開催体制も検討されるかもしれない。
筆者がこれまでマカオのG2Eアジア会場で顔を合わせていた馴染みの日本の業界関係者の中からも、シンガポール開催を歓迎する声が聞かれた。出展者、ビジター、メディアとも、隔離検疫免除での相互往来が可能だから現地へ行けるのを楽しみにしているといった様子が伺えた。残念ながら、筆者はマカオを拠点としているため、シンガポールへ簡単に入国できたとしても、マカオへ戻る際に2週間の隔離検疫(専用ホテル滞在)が必要となるなど高いハードルがあり、渡航は現実的ではない。マカオ(及び同じくゼロコロナ政策を堅持する香港、中国本土)の業界関係者も同様の悩みがあるはずだ。ごく当たり前のように毎年取材に訪れていたG2Eアジアが遠い存在になったと一抹の寂さを感じるが、ウィズコロナ政策を採用する国や地域の業界関係者の皆様におかれましては、ぜひシンガポールを訪問し、3年ぶりとなる貴重な情報収集、交流機会を活用いただきたい。
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/