【コラム】コロナ禍がマカオカジノ運営企業の業績に与えたインパクト(WEB版)/勝部悠人

新型コロナウイルス感染症の世界的流行が長期化の様相を呈している。マカオでは比較的早い時期に封じ込めに成功したこともあり、総インバウンド旅客数の約7割を占め、最大の旅客ソースである中国本土との往来制限が昨年(2020年)第3四半期以降にかけて段階的に緩和されたことを受け、インバウンド旅客が戻りつつある。カジノ売上についても昨年第2四半期に底打ちし、第3四半期以降は回復傾向が続いている。今後、中国本土及びマカオで大規模なリバウンドが発生しない限り、この状況は維持されるものと見込まれる。また、旅客ソース2位(約2割)の香港との間の往来制限緩和に向けた協議の話も浮上しており、インバウンド旅客数及びカジノ売上の底上げにつながると期待が高まっている。

昨年通期のインバウンド旅客数は前年比85%減の約590万人。カジノ売上についても前年比79.3%減の604.41億マカオパタカ(日本円換算:約8229億円)にとどまった。上述の通り、マカオではすでにリカバリーが始まっている状況。マカオ政府は2021年のインバウンド旅客数見通しを600万~1000万人程度、カジノ売上見込みを1300億マカオパタカ(約1兆7683億円)としている。いずれもコロナ前水準に戻るには向こう2~3年程度かかるとされるが、トンネルを抜けたことで明るいムードも漂う。

マカオのカジノ施設は、政府とコンセッション(経営権契約)を結ぶ6つの民間事業者=SJMホールディングス社、ギャラクシーカジノ社(ギャラクシーエンターテインメントグループ)、ヴェネチアンマカオ社(サンズチャイナ)、ウィンリゾーツマカオ社、メルコリゾーツマカオ社、MGMグランドパラダイス社(MGMチャイナホールディングス)によって運営されている。このほど、6陣営の昨年通期の業績が出揃った。コロナ禍がどの程度業績にインパクトを与えたのか、この機会にご紹介しておきたい。

各陣営の赤字額は約24.5億~126.6億マカオパタカ(約334~1724億円)の範囲で、6陣営の赤字合計は約330億マカオパタカ(約4493億円)に上った。参考までに、コロナの影響が生じる前にあたる一昨年、6陣営合計で413億マカオパタカ(約5623億円)の純利益だった。差し引き約1兆円が吹き飛んだことになり、新型コロナが業界に与えたインパクトがいかに甚大なものであったことがわかる。

昨年、マカオ政府は各種経済支援対策を講じたが、主に中小企業や個人を対象としたもので、大企業にあたるカジノ運営企業は対象外とされた。各陣営の業績発表資料を参照すると、徹底したコストコントロールを進めたことが伺える。ただし、雇用は基本的に維持した。また、既存施設のリノベーションや開発計画を着々と進める動きも見受けられた。早期のコロナ封じ込めに成功したマカオの先行きに対する安心感は強く、マカオ市場の重要性に対する認識にも変化は見られない。昨年の赤字額は一昨年の純利益よりも小さく収まっている点も注目に値するだろう。コロナ禍ほどではないものの、現行ライセンス下でマカオのカジノ売上がマイナスに転じた時期はあり(2016年に対前年3割超の下落)、カジノ運営企業は従来のVIPルーム偏重からマスシフトへ転じるなどの対応を機敏に進めた経緯がある。コロナ禍を経験したことで、より経営靱性を高めることができたのではないだろうか。

さて、現行の6陣営のコンセッション満期日は2022年6月26日となっている。マカオ政府はかねてより新たなコンセッションを「延長ではなく、再入札方式とする」方針を示しているが、コロナ対応への奔走を余儀なくされたことで政府内での準備作業に遅延が生じているとのこと。満期日まで1年半を切っているが、これまでのところ次期コンセッションに関する具体的な内容については未発表のままとなっており、一旦は現行コンセッションの延長で時間稼ぎをするのではないかとの見方が優勢だ。コロナ禍が思わぬかたちでマカオのカジノ業界に大きなインパクトを与えたことになる。

ポストコロナのマカオのカジノ業界は、インバウンド旅客数とカジノ売上がどのくらいのスピードで回復が進むのか、カジノ運営企業の収支均衡と黒字転換がいつ頃になるのかとともに、次期コンセッションに絡む動きが主なトピックとなりそうだ。

マカオIR施設

インバウンド旅客数とカジノ売上ともに回復傾向が続くマカオ。統合型リゾート施設にも人出が戻りつつある(資料)=2021年4月筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/

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