目下、マカオの大型カジノ施設の多くがLMGシステムを導入している。LMGシステムが普及した背景には、マカオ市場独特の事情があったとされる。
まず、最も大きな理由として、マカオでは政府によりカジノテーブルの台数がコントロールされていることが挙げられる。政府は2013年から2022年までの10年間、毎年平均のカジノテーブル台数の増加率を3%以内とし、認可にあたってノンゲーミング(非カジノ要素)に対する投資規模を審査基準とする原則を打ち出している。近年、大型カジノ施設の開業が相次いだが、割り当て台数が運営企業の希望に届かないことが常態化した。
次に、人材だ。マカオでカジノディーラー職として働くことができるのはマカオ人(マカオ居民IDカード保有者)に限定されている。マカオの人口は約70万人で、海外労働者などを除いたマカオ居民IDカード保有者は3分の2程度。給与水準がカジノ業界平均より低く、シフト勤務を強いられる(マカオのカジノは24時間365日営業が基本)職種であり、マカオの経済成長に伴う高学歴化などもある状況で人材不足が懸念される中、カジノ運営企業は効率化を図る必要がある。
近年、マカオのカジノテーブルにおけるミニマムベット額が高止まりしている。バカラの場合、1ベットが800〜1000香港ドル程度、日本円にして1万円を超える水準だ。マスの利益率はVIPよりも大きく、インバウンド旅客数が右肩上がりに上昇する中、マカオのカジノ運営企業はマス(平場)の集客に力を注ぎ、総売上に占める比率も上昇し、VIPと拮抗するまでになった。LMGシステムでは、規模を生かしてミニマムベットを低く設定できることから、マスのゲストを呼び込むのに適している。
マカオカジノ監理局にあたるDICJが公表するゲーム別の売上統計にLMGが入ったのは2009年のこと。同年の売上は1.5億マカオパタカ(約20億円)だったが、2019年には28.4億マカオパタカ(約371億円)にまで拡大した。他のゲームとの比較ではブラックジャックとほぼ同じで、ルーレットの2倍にあたる。飛躍的に成長を遂げたのは上述のカジノテーブル台数制限がスタートした2013年前後にかけてのこと。
LMGシステムは海外のカジノ運営事業者からも大きな注目を集めているという。マカオのカジノ業界は、単に売上が大きいだけでなく、こうした新技術や人材分野においても世界をリードする存在になってきたと感じる。百聞は一見にしかずということで、どのような仕組みのものか、マカオでぜひ現物を見ていただきたい。
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/