マカオは人口約70万人、東京の山手線の内側の半分に相当する面積32平方キロという小さな地域だが、年間インバウンド旅客数は3000万人超にも達する。域内には約40軒のカジノ施設が建ち並ぶほか、競馬やスポーツベッティングといった各種ギャンブルが存在し、いずれも政府とコンセッション(経営権契約)を締結した民間事業者が運営している。昨年(2019年)通期のギャンブル売上は約4兆円に上り、実にその99.7%をカジノ売上が占めた。
世界最大規模のカジノ売上を牽引するのはインバウンド旅客で、地元マカオ居民(居住者)の売上割合は5%未満と推定されている。一方、ギャンブル業従事者(カジノ仲介業含む)の数は人口の約12%にあたる約8.5万人で、その家族や周辺産業に従事する人も含めれば、生活を営む上でギャンブルと何らかの接点を持つ人の割合は非常に大きい。これほどギャンブルが身近に存在する地域は世界的にみても珍しいだろう。
今回は、ギャンブルの街・マカオにおけるギャンブル依存への取り組みについて紹介したい。
継続的な依存対策に一定の効果あり
長いギャンブル産業史を誇るマカオだが、官民合同による本格的な取り組みがスタートしたのは2009年のこと。「レスポンシブル・ゲーミング(RG)」の名の下、マカオ政府(ギャンブル監理部門「DICJ」と社会福祉行政を管轄する「IAS」が中心)、政府とコンセッションを結びギャンブルを運営する民間事業者、民間のソーシャルサービス機構らが緊密に連携して、ギャンブル依存対策をはじめとする社会コストへの対応を行っている。具体的には、隔離制度の設立(本人及び家族等第三者からの申請によるカジノ入場禁止措置)、カジノ施設へのRG情報端末(隔離申請機能付き)の設置、ギャンブル運営企業内部の研修を含む地域コミュニティに対する多元的な啓蒙活動の展開、24時間対応の電話やインターネットによるギャンブル依存相談ホットラインの開設、多角的なギャンブル依存の予防・治療プログラムの開発と提供、青少年向けのギャンブル予防教育の推進、ギャンブル依存対策専門カウンセラーの育成などが挙げられる。
さらに、RGに絡む法改正も進められてきた。マカオのカジノ入場及び就労年齢制限は長らく「18歳以上」だったが、2012年11月1日から「21歳以上」に引き上げられた。また、隔離制度に登録している人の職業のうち、無職に続いてカジノディーラーとカジノサービススタッフが多いことを理由に、カジノ業従事者を保護する目的で2019年12月27日からカジノ従業員の業務外(余暇)時間におけるカジノ入場が禁止とされた。
IASがマカオ大学コマーシャル・ゲーミング研究所に委託して3年に一度実施している「マカオ居民ギャンブル活動参加調査研究」によれば、マカオ居民のギャンブル参加率(過去1年以内に1回以上参加)は2007年の59.2%から2019年には40.9%に下落。ギャンブル依存有症率は2007年の6%をピークに2019年には0.8%まで下落し、いずれも過去最低だった。IASでは、マカオ各界が協力して継続的にRGに取り組んだことで一定の成果が表れたと評価している。
ギャンブル参加率が高いのはカジノではなく「六合彩」
なお、2019年の調査で最も参加率が高かったギャンブルは六合彩(日本のロト6に相当)の36.9%。以下、社交ギャンブルの12.6%、マカオのカジノの9.4%、サッカーくじ及びバスケットボールくじの7.6%、スロットカジノの4.8%と続いた。前回調査(2016年)との比較では、サッカーくじ及びバスケットボールくじが軽微な上昇だったが、その他4ジャンルは下落だった。また、同年の調査対象者2003人のうち、米国精神疾病診断・統計第5版(DSM-5)スケールに基づく測定によってギャンブル依存の可能性が存在した人の数は16人で、ギャンブル依存有症率は前回調査から1.7ポイント下落の0.8%にとどまった。
先にマカオのカジノ売上を牽引するのはインバウンド旅客と書いたが、その大半は中国本土からの旅客だ。中国本土からマカオへ渡航するにはビザに相当する許可を得る必要があり、滞在期間は約1週間、そして渡航頻度も数ヶ月に一度のみという縛りが設けられている。よって、マカオのカジノに入り浸るということは物理的に困難だ。現状、マカオにおけるRG施策はマカオ居民の保護に主眼が置かれているといえるが、隔離制度についてはインバウンド旅客も対象となっている。
マカオ居民はギャンブルに囲まれた環境が当たり前となっており、家庭や学校教育を通じて自然と距離の置き方を身に付け、うまく共存しているように感じられる。
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/