バカラの魅力は単純明快なゲーム性と『絞り』
カジノ運営会社に勤務経験のある30代のマカオ人女性に尋ねてみると、いわゆる丁半博打でルールがわかりやすく(賭け方の種類も少ない)、同席のギャンブラー同士あるいは対面するディーラーとの駆け引きの要素がないことを挙げた。また、バカラならではの「スクイーズ(絞り)」という行為も魅力だそう。配られたカードを捲ることを指すが、配られた時点で結果は決まっており、運命は変えられないにも関わらず、端の方から少しずつ覗き込むように、じわじわとめくっていくのが暗黙の了解となっている。テーブルを囲むギャンブラーが一体となり、欲しい数字を念じながら固唾を飲んで結果を見守り、数字が出た瞬間に興奮は最高潮に達する。映えある絞り役はディーラーが指名するが、通常は最もベット額が大きいギャンブラーとなる。絞りをやりたいばかりに大きく張るギャンブラーもいるほど。テーブルにツキのあるギャンブラーがいる場合、ゲンを担いで絞り役を譲ることもある。実はバカラの配当倍率(オッズ形式)は低く、主な賭け方となる「プレイヤー」勝利の場合で2倍、バンカーなら1.95倍に過ぎないが、それぞれのギャンブラーが独自の勝負勘を駆使ながら1ゲームあたりのベット額を調整し、山あり谷あり、毎回の絞りに一喜一憂しつつ、夜通し延々と遊んでいても飽きないのだという。
なお、プレイヤーとバンカーの配当倍率に違いがあるのは、バンカーの場合、親(カジノ側)が5%のコミッションを差し引くため。3枚目のカードを引く条件を考慮した場合、バンカーが僅かに有利とされている。カジノ側にとっては、この5%の積み重ねも大きく、バカラのシェアが圧倒的なマカオにおいてはなおさらだ。
ちなみに、マカオのカジノのマスゲーミングフロアにおけるバカラの最低(ミニマム)ベット額は中小規模の施設で300香港ドル(約4250円)~、大型施設では800香港ドル(約1.1万)~となっている。VIPルームでは、より高額な設定だ。
前号で紹介した公立のディーラー養成機関(マカオ理工学院付属施設)では、まず全員がバカラディーラーコースを受講し、証書の獲得を目指すことになっているという。それだけ採用側(マカオのカジノ運営会社)の需要が大きいことを意味する。
テーブル数の割合と売上においてバカラが圧倒的な存在感を示すのは、マカオに限らず中華圏から訪れるギャンブラーへの依存度が高いとみられる他のアジア諸国のカジノでも同様。日本版IRで採用されるテーブルゲームの種類と配分にも注目したいところだ。
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/