【コラム】マカオのカジノ業界の給与事情(WEB版)/勝部悠人

マカオ政府統計調査局発表資料によれば、昨年(2019年)第4四半期のマカオの就業人口全体の月給中位数(賞与等臨時給含まず)は1万7000マカオパタカ(約22.7万円)、マカオ居民(マカオ居民IDカード保有者)に限ると2万マカオパタカ(約26.7万円)だった。

給与水準は高給、ゲーミング業従事者の平均月給は2万4640マカオパタカ

昨年第4四半期におけるフルタイムのゲーミング(カジノ)業従事者(カジノ仲介人及びカジノ仲介人パートナーは含まず)は就業人口全体の14.5%を占める約5.8万人に上る。昨年12月のフルタイムのゲーミング業従事者の賞与等臨時給を含まない平均月給は2万4640マカオパタカ(日本円換算:約33.0万円)、ゲーミング業従事者の約4割を占めるカジノディーラーに限ると2万1080パタカ(約28.2万円)。給与面で恵まれた業界であることがわかる。

マカオのゲーミング企業では、春節(旧正月)前に月給の1ヶ月分のボーナスを支給するのが一般的だ。よって、上記データを基に試算すると、ゲーミング業従事者の平均年収は32万320マカオパタカ(約428.5万円)となる。マカオには住民税というものが存在せず、給与所得にかかる税金(職業税)は最大12%だ。累進課税で、控除枠もあり、この年収なら年間の所得税額は約5757マカオパタカ(約7.7万円)。マカオでは所得税の6割が還付される上、毎月天引きされる社会保障基金への拠出額も30マカオパタカ(約400円)にすぎず、額面の給与が手取り額に近いものとなる。

マカオ政府高等教育局が2019年にマカオの大学で卒業見込みの学生を対象に実施したアンケート調査結果によれば、就職先の一番人気は公務員だった。華やかなカジノ都市のイメージが強いが、現地で暮らしてみると保守的な土地柄であると感じることも多い。長年に渡って公務員が不動の人気を誇るものの、カジノ運営企業の人気も高まっているという。21世紀に入って以降、外資の参入によって業界が国際化、活性化し、IR(統合型リゾート)志向のビジネスモデルに進化。運営企業は香港証券取引所メインボードに上場を果たし、マカオ社会における存在感、ステイタスとも大きく向上した。また、給与水準の高さ、福利厚生の充実、研修制度を含むキャリアアップにつながるチャンスを多く提供するなど、いわゆる大企業ならではのメリットも大きな魅力となっている。

カジノディーラー職は、マカオ居民のみが就くことができると法律で規定されている。カジノディーラーになるためには、公立の養成機関(マカオ理工学院付属施設)でトレーニングを受ける必要があるが、21歳以上のマカオ居民であればよく、学歴や職歴は不問、受講料も無料だ。平均給与データが示す通り、ディーラー職の給与水準は一般を上回っており、学歴の壁に阻まれて低賃金労働に従事せざるを得なかった中高年がチャレンジするケースが多く、セーフティネットのひとつとしての役割を果たしている。

マカオでは2012年にカジノフロア入場年齢の下限が18歳から21歳に引き上げられた。ギャンブラーだけではなく、従業員も対象となっており、その背景には高校を卒業してすぐに高給が期待できるディーラー職に就く動きをけん制したものともいわれる。高等教育を受けた上、ゲーミング企業のマネジメントを担ってほしいとするマカオ政府から未来を担う若い世代に対するメッセージと受け取れる。

「成熟期」へ向け人材育成も今後の課題に

マカオ特別行政区人材発展員会が昨年5月に公表したゲーミング業界の人材需給リサーチ資料によれば、カジノ運営企業の中間管理職と専門職スタッフに占める地元マカオ人人材の割合は前者が97.4%、後者が93.6%と高水準に達しているとのこと。ただし、上級管理職では2割程度にとどまっており、ここを担うことができる人材を輩出する必要があると指摘している。マカオのカジノ産業が発展期から成熟期へ移行する中、人材育成の重要度は一層高まっている。

マカオの人口は海外労働者も含めて約68万人にすぎない。政府がローカルの雇用を保護する政策を堅持しているため、海外労働者の雇用枠を獲得するためのハードルは高くなっている。給与を含む待遇面で圧倒的に有利なゲーミング企業は人材獲得において有利な立場にあり、中小規模のローカル店が人材難に陥るといった問題も生じている。ゲーミング企業とローカル企業の間に生じる格差の是正については、ゲーミング企業側が地元中小企業支援対策を講じており、備品やサービスの仕入れ機会を提供することなどを通じてビジネスチャンスの創出を図っている。

大型カジノIR(統合型リゾート)が建ち並ぶマカオ・コタイ地区の風景(筆者撮影)

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/

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