【特別寄稿】パチンコ産業の歴史㉙ パチスロ、規則改正での低迷から復活の兆し(WEB版)/鈴木政博

1. ART機の成熟期
5号機となり、純Aタイプ「アイムジャグラーEX」の独壇場で市場としては低迷していた中での「ボンバーマンビクトリー」や「スパイダーマン2」の登場。ARTパンクハズシの機能でART機がヒットの兆しを見せはじめた頃、ちょうどホールでは導入がはじまったJPS製「2027」の評価が高まっていた。そんな中、2007年7月に行政より「回胴式遊技機に係る試験申請時の添付書類について(通知)」が通達され、9月1日以降の型式試験持ち込み機種に適用となった。ただしARTが禁止されたわけではない。今までは、例えばARTパンク条件が「チェリー入賞」の機種であれば、型式試験上では「成立したフラグは全て入賞したと仮定するシミュレーション試験」を行っていたためARTはチェリーを引く度に即パンクを繰り返すこととなり、出玉率は自動的に抑えられていた。それがこの通達により「客が最大の出玉率を得ることができる遊技方法」と「その客への指示の具体的内容」を添付しなければならなくなったことから、型式試験でも、その「最大の出玉率を得る打ち方」で試験するようになる。

当時、この通達により一時的に手さぐり状態となりART機が低迷する。しかし2ヶ月後の2007年11月、日工組と日電協は警察庁に対し、21項目の規制緩和を陳情した。これを受けて2008年3月にパチスロ規格の解釈基準が変更、21項目のうち9項目について緩和がなされた。演出部分での緩和がメインではあったが、中でも一つ「ボーナスより小役を優先して引き込む」ことができるようになったのが大きかった。ここから、ART機は様々な進化を遂げていく。

2008年3月、イレブンが「押忍!!空手部」を発売。この機種は10枚役の「ベル」と、別の組み合わせによる10枚役を多数用意。複数フラグを同時に立てて、その組み合わせ数の多いものを優先して引き込む仕組みを利用し、実質上の「押し順ART」を再現した。この機種は解釈基準変更前の規格であったが、変更以降も2008年11月にはオリンピア製「南国育ち」が発売、その後のART機は押し順がメインとなっていく。

オリンピア製「南国育ち」

オリンピア製「南国育ち」

押し順ナビが支持された大きな要因として、5号機のARTは4号機に比べ純増に時間がかかるため、長時間の目押しは遊技者にとって苦痛が大きいという要素があったためだ。押し順であれば、長時間ARTが継続しても、疲労は比較的緩和される。この「押し順ART」復活が市場に与えた影響は大きかった。解釈基準の緩和による「フリーズ」など演出面の進化も合わせ、5号機ART機は成熟期を迎えていく。

2. ART機の大ヒット、そして再び自粛へ…
2009年1月、大都技研製「忍魂」が発売された。初期投入台数は少なめだったものの、市場で抜群の支持を受け、増台需要が高まる。そして2009年9月、サミー製「交響詩篇エウレカセブン」が発売。押し順によって入賞ライン数を変える仕組みの押し順ART機であったが、その演出完成度、ゲーム性も併せ持って、市場から絶大な支持を得る。5号機ART機では当時は異例の5万台以上という大ヒットとなった。

2009年にはネット製「ドラキュラ」、コルモ製「シーシー」など、緩和による小役優先を利用し、毎ゲーム1枚役とリプレイフラグで埋めることにより実現した「ネオストック機」なども登場。しかし、型式試験上はボーナスフラグが成立したゲームでボーナスを揃えるシミュレーション試験を行うため、ホールでの出玉率が高くならないという難点を克服できずヒットには至らなかった。やはり市場はART機に集中していた。

しかしその一方で、ARTの出玉に行き過ぎ感の懸念も出てきていた。2009年5月に発売されたエレコ製「緑ドン」は、市場で非常に高い人気を得ていたものの、8月末納品で急遽販売中止を決定。同年12月22日には、回胴式遊技機製造業者連絡会が都内にてパチスロの自主規制等に関する研修会を開催、出玉が増加する一連の区間(ART中)において期待できる出玉数について3,000枚を超えない、という自主規制案を発表した。

しかし、それでもART機は市場で熱烈な支持を得ていく。2010年3月に発売されたロデオ製「新鬼武者」が9万台を超える台数を出荷。パチスロ市場は完全に復活を遂げた。実際に、2006年に200万台を突破して以降、下降を続けていたパチスロ設置台数は、2008年に134万7千台で底打ちし、2009年には139万台と増加に転じている。

さらに2011年に入ると、2月に大都技研製「秘宝伝」、3月に山佐製「モンキーターン」、10月に大都技研製「押忍!番長2」、そして12月にはサミー製「パチスロ北斗の拳~世紀末救世主伝説~」が発売。北斗の拳は15万台を超えるメガヒットとなった。市場設置台数も147万台を記録、パチスロ完全復活の兆しが見え始めた。

しかし再び、ARTが問題視され始める。2011年8月にミズホ製「ミリオンゴッド~神々の系譜~」が発売。押し順ナビで純増2.4枚、15枚役メインという機種がヒットするのを契機に同10月にはエレコ製「エージェントクライシス」が発売、5号機として初めて「ART純増3枚」を実現する。以降各社が「純増枚数重視」のスペックを開発し、2012年4月にはオリンピア製「パチスロねぇ~ねぇ~島娘」が、同5月には山佐製「パチスロ鉄拳デビルVer.」が発売。しかし、この動向に再び懸念が示されはじめた。実際に2012年6月には回胴式遊技機の保通協型式試験結果書交付は75件あったものの、うち55件が不適合と極めて低い適合率を示した。

エレコ製「エージェントクライシス」

エレコ製「エージェントクライシス」

緩和と規制強化の繰り返しがこの業界の常ではあるが、またここでパチスロも足踏みを余儀なくされることとなる。

(以下、次号)

■プロフィール
鈴木 政博
≪株式会社 遊技産業研究所 代表取締役≫立命館大学卒業後、ホール経営企業の管理部、コンサル会社へ経て2002年㈱遊技産業研究所に入社。遊技機の新機種情報収集及び分析、遊技機の開発コンサルの他、TV出演・雑誌連載など多数。

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