【コラム】マカオのカジノ運営6社のノンゲーミング投資額が当初から2割増の約2.4兆円に(WEB版)/勝部悠人

マカオでは、昨年(2023年)1月上旬からアフターコロナとなり、インバウンド旅客数が急回復、またカジノ売上(粗収益、Gross Gaming Revenue=GGR)についても復調が進み、直近まで勢いを維持している状況。昨年の年初には、マカオの新たなカジノ経営コンセッションもスタートし、マカオのカジノ業界は新時代を迎えたといえる。

現行カジノ経営コンセッションの契約事業者は6社で、顔ぶれは以前と変わらないが、期間は10年間と従前のものより大幅に短くなるなど変更点も多い。今回は、現行コンセッションの重点ポイントの一つとされるノンゲーミング(非カジノ要素)に対する投資への各社のコミットメントに焦点を当ててみたい。

マカオ政府は新カジノ経営コンセッションの契約書を2022年12月16日に6社とそれぞれ取り交わし、翌日の政府及び6社の合同会見で投資計画が発表され、10年間のノンゲーミング投資は6社の総額で約1087.6億パタカ(約2兆円)であることが明らかになった。実は、コンセッションには、契約初期の5年以内(2023~2027年)にGGRが1800億パタカ(約3.3兆円)に達した場合、当初コミットしたノンゲーミング投資額を2割増額することが盛り込まれているが、契約初年のGGRが1830.6億パタカ(約3.4兆円)に上り、早くもこれが実現することとなった。

6社はいずれも香港証券取引所に上場しており、公告の内容から各社のノンゲーミング投資額を知ることができる。2割増額を踏まえた6社の最新のノンゲーミング投資総額は1304.2億パタカ(約2.4兆円)で、当初より216.6億パタカ(約4000億円)の増に。ゲーミングを含む総投資額については、1188.8億パタカ(約2.2兆円)から1405.4億パタカ(約2.6兆円)となった。増加率は前者が20%、後者が18%。

続いて、事業者別のノンゲーミング投資額の変化をみていきたい。数字は当初→増額後となる。金額が大きい2トップはVenetian Macau Limited(サンズチャイナ)の278億パタカ(約5130億円)→333.6億パタカ(約6160億円)とGalaxy Casino Company Limitedの274.5億パタカ(約5070億円)→328.5億パタカ(約6070億円)。以下はWynn Resorts (Macau) Limitedの165億パタカ(約3050億円)→198億パタカ(約3660億円)、MGM Grand Paradise Limitedの150億パタカ(約2770億円)→180億パタカ(約3320億円)、SJM Resorts, Limitedの120億パタカ(約2220億円)→144億パタカ(約2660億円)、Melco Resorts (Macau) Limitedの100.08億パタカ(約1850億円)→120.11億パタカ(約2220億円)の順。およそ、用地のサイズに比例したものといえるだろう。政府が公表したコンセッション入札の評価点順はMGM、Galaxy、Venetian、Melco、Wynn、SJMの順だったことから、投資額の大小のみで入札評価が決まったわけではないことがわかる。

ノンゲーミング投資の具体的な用途については、2022年12月の時点で各社ともレジャー・エンターテインメント・スポーツ・グルメといったコンテンツの誘致(恒久施設及びイベント)やMICEファシリティ(ソフト・ハード両面)の拡充を挙げていた。増額を受けて、これらが一層強化されることになるだろう。目下、現行コンセッションがスタートして2年目の後半を迎えているが、すでに各社の新施設やイベントが次々と登場しており、筆者の現地で取材する中、マカオのツーリズムコンテンツ・エクスペリエンスの充実につながっているように感じる。実際、直近の夏休みシーズンのインバウンド旅客数はコロナ前2019年同時期を上回ったことからも、一定の底上げ効果があったはずだ。コンセッション期間は10年と短く、初年を終えた時点で増額が決まったことは、残存期間を考慮すれば結果的に良かったといえよう。

政府が6社へ巨額のノンゲーミング投資額をコミットさせた背景には、マカオ経済の過度なカジノ産業依存からの脱却を図るため、産業の多角化を推進したい意向があるとされる。現行コンセッションにおける重点ポイントは大きく2つ挙げられており、もう1つは国際誘客だ。マカオのインバウンド旅客は中華圏からが9割を占めており、旅客ソースの多元化を図りたい政府の意向を反映したもので、これについても別の機会に紹介してみたい。マカオは世界最大のカジノ市場であり、政府は契約の中で受益者である6社に地元に対するコントリビューションを求めている。日本も見習うところがあるだろう。

なお、今年のマカオは五年に一度の行政長官(首長)選挙の年を迎えている。投開票は10月13日、就任式は12月20日に行われる予定。現行コンセッションの取りまとめを主導した現職の賀一誠行政長官が次期選不出馬のため、新たな行政長官が誕生することになっており、政策の変化の有無に大きな注目が集まっている。

タイパ島の大潭山から統合型リゾート(IR)が建ち並ぶコタイ地区を望む=筆者撮影_1

タイパ島の大潭山から統合型リゾート(IR)が建ち並ぶコタイ地区を望む=筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/

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