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【コラム】ラスベガス・サンズはなぜ創業の地を捨てアジアに集中するのか?(WEB版)/勝部悠人

投稿日:2021年4月30日 更新日:

今年(2021年)3月早々、カジノ業界に衝撃的なニュースがもたらされた。世界最大規模のカジノ運営会社として知られる米ラスベガス・サンズ(以下、LVS)がラスベガス事業から撤退し、マカオとシンガポールを中心とするアジア事業に集中する計画を進めていることが明らかとなった。ラスベガスといえば、LVSにとって創業の地、そして本拠地であり、約30年にもわたって事業を行ってきた場所だ。社名にも「ラスベガス」を冠しており、聖地といっても過言ではないだろう。

報道によれば、LVSは旗艦施設である「ザ・ヴェネチアンリゾート・ラスベガス」と「サンズ・エキスポ&コンベンションセンター」を米投資ファンドなどに売却し、その売却額は62億5000万米ドル(約6900億円)という。

LVSは本拠地から撤退して本当に大丈夫なのか?と感じた方もいるだろう。実は、LVSの年間売上高に占めるラスベガス事業のシェアは13%にまで低下しており、8割超をマカオとシンガポールのアジア事業が占める。成長市場であるアジアに特化する姿勢をより鮮明に打ち出したわけだ。

LVSの売上高の3割強を占めるとされるシンガポールでは、2019年にマリーナ・ベイ・サンズの追加投資をコミットしたことによって、シンガポール政府からライセンス延長(2030年までの10年間)を勝ち取っている。大型劇場(約1万5000席)やエキジビション・コンベンション施設、高級ホテル(約1000室)を追加する予定。

マカオについては、現行ライセンスの満期が2022年に迫っている。現行ライセンス下で計画していた施設はすでに出揃っており、近年は既存施設への再投資(リノベーション等)を進めている。マカオ政府は現行ライセンスの更新ではなく、新規入札とする方針を示しているが、コロナ禍でスケジュールに遅れが生じており、現時点で条件などの詳細が明らかとなっていない。LVSの売上高に占めるマカオのシェアは5割弱にも上り、アジアに特化する決断を下した同社にとって、新ライセンスの獲得はマストとなる。入札条件の中には、投資規模も含まれるのが当然であり、来るべき日に向けて、軍資金を確保しておきたい思惑もあるはずだ。

LVSは日本版IRへの進出意向を一旦白紙に戻しているが、アジアにおける新市場への展開も虎視眈々と狙っているとされる。

「ラスベガス」といえば、カジノだけでなく、エンターテイメントの街として名が通っている。カジノだけではない複合型のレジャー・エンターテイメント施設を指す「統合型リゾート(IR)」という発想もラスベガス発祥だ。LVSは特にマカオに「サンズ」や「ザ・ヴェネチアン」といったラスベガスの成功モデルを持ち込み、「ラスベガス型」を謳ったIRを展開してきたことから、ラスベガス撤退後はイメージ戦略の再考が必要になるかもしれない。

なお、LVS創業者で「カジノ王」と呼ばれたシェルドン・アデルソン氏が今年1月11日に死去(享年87歳)。同社は新経営体制をスタートしたばかりだ。新経営陣は今回のラスベガス撤退、アジア特化の決断にあたり、株主への利益還元を理由として挙げている。アデルソン氏の存命中からラスベガスの不動産売却は検討されていたという。

LVSの本社機能は今後もラスベガスに残す見通しとされる。また、売却の対象となる施設についても、経営が変わるだけで、施設そのものは存続するようだ。

マカオのカジノ運営ライセンスを保有する6陣営のうち、半数にあたる3陣営がラスベガス組だ。具体的には、LVS系のサンズチャイナのほか、ウィン・リゾーツ系のウィン・マカオとMGMリゾーツ・インターナショナル系のMGMチャイナとなる。ウィンとMGMの両社の場合、アジアの事業拠点はマカオのみであり、シンガポールを持つLVSと比べて売上高に占めるマカオの比率がより高くなっている。MGMリゾーツ・インターナショナルも今年1月にラスベガスの主力ホテル「MGMグランド」と「マンダレー・ベイ」を24億米ドル(約2600億円)でファンドへ売却すると発表。その前にも「ベラッジオ」や「サーカスサーカス」を売却済み。売却を通じて確保した資金の用途については、進出を目指す日本など成長市場開拓のための投資などと説明している。国際カジノ大手の脱ラスベガス、アジアシフトの動きがトレンドとなっているようだ。

IR施設「ザ・ヴェネチアンリゾート・ラスベガス」

LVSがファンドへの売却を計画しているとされるIR施設「ザ・ヴェネチアンリゾート・ラスベガス」(資料)=2014年5月筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/

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